「いいもの見た」箱入り息子の恋 坂月 行雲さんの映画レビュー(感想・評価)
いいもの見た
健太郎の感性については、理解できる人と理解できない人がいるとは思う。一面的な社会不適合者の性質を切り取って写しているわけではないと思えた。しかしまぁ色々不器用ではある。
その不器用な感性をもった健太郎の不器用な恋模様が溢れでて、活力をもらえる、そんな映画。
その主軸については僕なんかが感想を出しても陳腐なものしか出てこないので、ただ「すごかった」と書いておこう。
その主軸以外について。それぞれの親子がとてもいい味を出している。
親は子に自分の生きてきた糧(考え、思想)を与えてあげたいし、子は親の気持ちを知りながら、自分の感性を持って生きたい。そんなズレた感触は親子なら誰もが通る道で、「箱入り息子の恋」だけでなくそんな家庭模様もうまく描写されていると感じた。
僕が一番いいなぁと思ったのは健太郎の父が「ゲームでこいつを倒すから、見合いをしてくれ」というシーン。
自分の意見を主張しながら、子供の感性を理解して、なんとか歩み寄ろうとするその姿勢って、本当にけなげですよね。その後も、子の健太郎との接し方について親子で苦悩するシーンがあって、最終的には健太郎が怪我を負っても、見舞いもせず二人でゲームをしている状態に至る。それっというのは、劇中の台詞にもあった「子離れ」が成功している描写として、とても感慨深かった。
親同士の対立や関係やしがらみが、当人同士の関係を相対化してより印象のある、映えのある、また物語としての原動力を生み出していて、やはり「恋」だけが主題になっている映画とは一線を画していると思った。いや、もちろんこの映画の最大の主題も「恋」だけど。
全体的に演技臭さがほとんどないように感じられた。
いや、実際に彼らは演技をしているわけだけど(実際演技くさいシーンもあるにはあるが)、それを演技として感じさせない、劇中におけるリアリティが相当高い水準で成立していて、受け手を引き込んでくれたと思う。主役の二人は本当に高いポテンシャルで文句がなかった。個人的にツボだったのが、おとなりのおばさん(笑)。なんだあれは。反則だ。
見終えて、本当にいい気持ちになった。主題歌もいいです。劇場での視聴を推奨します。