劇場公開日 1958年12月28日

「黒澤作品としては細部の詰めが甘い」隠し砦の三悪人 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0黒澤作品としては細部の詰めが甘い

2024年9月26日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

気になるのは脚本の練り込みの粗さ。

特に太平と又七のコンビが一貫性のない性格で、こんにゃくのように態度が変わる。欲深い性格の故と、劇中では語られるが、狂言回しの役割なので、主人公たちの置かれた危機をうまく説明するために、彼らのセリフを当て込んでいるが、ついて来る必然性が薄い。200貫と言えば相当に重いはず。少人数で運べる量ではなく、どこかに隠して、逃げることを優先するのが定石だろう。

関所の通過を解りやすく説明するのも、観客に分からせるための方便で、真壁六郎太ほどの大将であれば、選択肢の一つとして頭にあったはず。太平と又七に気づかされた体裁だが、愛すべき凸凹コンビと強い侍の結団式を、粋なエピソードで見せているが、普通なら二人は逃げ出すだろう。

偶然の要素が重なり過ぎている。

それにしても祭りのシーンは素晴らしい。
三船と藤田進の槍の戦いも見事。練習から、本番まで、かなりの手間がかかっているはずだ。
最後の、獄中で姫が負け惜しみを吐くシーンも素晴らしい。処刑を待つ身でありながら「楽しかった!」と言って、歌を朗じ、それを見た兵衛は自分の主君とのあまりの器の違いに、心中穏やかでない。姫を守り切れなかった六郎太は悔しさで男泣き。このロングショットの長回し。画面に収まっている4人ともが、それぞれの胸中を態度で見せている。奇跡が起きたと言っていいだろう。

娯楽性に大きく舵を切って作られた映画で、展開の少なさの割には尺が長い。確かに面白い作品ではあるが、個人的には「用心棒」「椿三十郎」で、その娯楽性は結実した印象だ。

また、この前の年に「蜘蛛巣城」があるが、ここでもド迫力の矢撃ちのシーンがある。三船敏郎の演技は、文字通り命がけであったろう。

後年、人間の業を描くことで、黒澤の映画はより深みを増していく。個人的には「赤ひげ」ほど魂を揺さぶられた映画も少ないので、どれか一つと言われれば黒澤作品では「赤ひげ」が一番で、この映画は残念ながら好きな黒澤映画の中の一本に過ぎない。

うそつきかもめ