劇場公開日 1958年12月28日

「その欲深は浅ましくも愛おしい」隠し砦の三悪人 ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5その欲深は浅ましくも愛おしい

2018年11月26日
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七人の侍や用心棒と比べるといまいち印象が薄いのは、シナリオの起伏がやや平坦で盛り上がりどころに欠けるからだろう。
後述の百姓ふたりの生々しくも誇らしい漫才喜劇的な側面と、三船敏郎のプロモビデオを足して、そこに黒澤ならではの高度な時代考証と説得力のある描写が彩として添えられてるような作品。

主役であるふたりの百姓は、端的に言ってしまえば間抜けで強欲だ。そうでしかあるまい。でもそんな単純な言葉に収まらない人間臭さがなんとも魅力的である。
彼らはラストシーンを迎えるまで変わることは無い。愚かで、単純で、目先のことしか考えない。しかして作品のヒロインたる棒読み姫や、とりあえずカッコいいとこだけ見せてる三船敏郎よりも、ずっと愛おしいキャラクターに仕上がっているのが絶妙ではないか。
その理由は、彼らの短慮も欲深さも、現代の価値観に汚れていない非常にプリミティブなものだからではなかろうか。彼らのあの言動は人間が誰しも備えていて、でも合理的に物事を考えられるが故に、あるいは現代社会のモラルに反するから実際に口にしていないだけなのだ。だから彼らを「馬鹿だなぁ、浅ましいなぁ」と眺めながらも嫌いにはなれないし、その行く末をハラハラしながら見守ってしまうのだ。

一方、三船敏郎は他の傑作と比べてまったく面白みのないただのカッコイイ侍に収まってしまってるし、お姫様はなかなか棒読みで大根なあたりに世間ズレしてる風を演じているのかと思いきやマジで素人だったりと、とくに良い印象は残っていない。

描かれる戦国時代の世界は流石で、宿場町の雑踏も、負けた領地の兵士や平民の行く末も、これまであまり気にしてなかったこともバッチリ描かれてて作品世界にぐいぐい引き込まれている。
重要なのは、これはリアルではなくリアリティであるということだ。エンタメ性質を阻害しない部分は、徹底してリアル"風"の描写を徹底している。近年のクソ時代劇が蔑ろにしてる全てがここにある。

姫様が常時化粧バッチリなのは凄まじい違和感があったが、ラストシーンではしっかり時流にあった化粧をしてるので(これには少し驚いた)きっとずっとすっぴんだったに違いない!

ヨックモック