「違和感はあるものの日本の描き方は意外と、真面目なタッチで描写されていると思います。」ウルヴァリン:SAMURAI 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
違和感はあるものの日本の描き方は意外と、真面目なタッチで描写されていると思います。
ハリウッド映画には、日本をテーマにした作品には決まって、フジヤマ、ゲイシャ、ニンジャ、ハラキリ……などベタな表現をお約束とする「間違った日本」の伝統があります。本作でも、港区から上野へとあっさり移動し、ラブホテルやパチンコなど海外から見たおなじみの“日本”がしばしば登場するのです。
しかし一見ベタに見えて、実はウルヴァリンの精神が侍になっていく過程として描かれているわけなんです。当初の視点は完全にガイジンの視点。それがヒロインで、矢志田財閥総帥の孫娘・マリコと逃避行をするなかで、日本の文化に触れて開眼していくのです。それは、ウルヴァリンが一時的に不死でなくなることと無関係ではありません。日本に来たウルヴァリンは己の生きる意味を真剣に問いつづけるように変わっていくのでした。
逃避先の長崎とされるマリコの別邸のある海辺の風景など、日本の美が堪能できるシーンが数多く映し出されていました。東京、広島、愛媛でロケが行われたクルーの日本の描き方は意外と、真面目なタッチで描写されていると思います。これまでの日本を題材にしたハリウッド映画とは一線を画すのではないでしょうか。
物語は、主人公のウルヴァリンがローガンと名乗り、カナダで隠遁生活を送っているところから始まります。赤毛の日本人女性・ユキオが現れ、ユキオの雇い主である大物実業家・矢志田が再会を熱望していると伝えられます。矢志田は昔、ローガンに命を救われたことがあったのです。誘われるままに東京に来たローガンは、矢志田は東京で再会を果たすものの、まもなく矢志田は亡くなってしまいます。
矢志田の葬儀中、ヤクザの襲撃を受けてマリコは拉致されてしまうものの、それをローガンが救出します。しかし、何者かのわなにはまって、ローガンは超人的治癒能力を失ってしまいます。
マリコを守って逃走を続けるローガン。常にヤクザやミュータント、謎のニンジャ部隊が追ってくるのでした。
弓を使うニンジャも加わって延々と続くアクションが迫力満点。新幹線の屋根では、ローガンとヤクザが風圧でピョンピョンと飛ばされながら戦うシーンもそれなりに迫力あるけれど、カエル跳びのようで、つい笑ってしまいました(^^ゞ
やはり見どころは、トレーニングで肉体改造したジャックマンの入魂のアクション。特に真田広之との殺陣のシーンでは、気合いが入ってました。結局本作は、あの日本刀対決が描かれば、他はそこそこでいいというような作品だった気がします。
突っ込みどころは、矢志田の警備陣と襲撃するヤクザが共にマシンガンを携帯しているところ。さすがにアメリカ人的な発想です。日本では即刻警察が飛んでくるでしょう。ましてや葬儀会場の増上寺でドンパチを派手にやり合うなんて考えられません。自衛隊まで制圧に投入されて、関係者は根こそぎ逮捕でしょうね。
それと、ローガンに頼んでもいないのに、不死の呪いを解いてやると一方的に親切を押し売りする矢志田の考えていることがよく分かりませんでした。あれだけ不老不死の苦しみをこんこんと説く老人が、自らは生の執着に溺れていたなんて、矛楯していますよ。
ラストでは、マリコの活躍を願いつつ、そっと身を退くローガンにウルルときました。アクションもいいけど、こういう孤独を滲ませるローガンもカッコイイですね。
その他に注目したのは、マリコ役でモデル出身のTAOの哀感漂う表情。ローガンの東京へのガイド役を務めたユキオ役を演じた、福島リラの切れ味鋭いアクションも見どころです。