「アクションだけを楽しむべき作品」ウルヴァリン:SAMURAI tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
アクションだけを楽しむべき作品
今最も脂ののったヒュー・ジャックマン主演で、予告編を観て「ウルヴァリンは如何にして治癒能力を失い、どのようにしてその後の危機を乗り越え復活するのか」と思っていたら、見事に肩透かしを食わされた気分だ。
予告篇にもあるアクションシーンは迫力十分で、新幹線の屋根部分でのヤクザとの戦いやシンゲンとの斬り合い、武者鎧型パワードスーツとの戦いだけでなく、福島リラの格闘技もシャープで見応えがある。
しかし残念ながらストーリーはそのアクションシーンに応えるものになっていない。
第二次世界大戦末期、何故か長崎の軍基地の井戸に隠れていた(捕虜ではない)ウルヴァリンは、原爆投下の熱爆風から救ったヤシダをからの招待を受け、使者のユキオと共に日本へやって来る。そこで死期の迫ったヤシダから「命を救われたお返しにお前に死を与えてやる」と告げられるが、その手段はヤシダの主治医に扮した敵対ミュータントから、能力抑制装置を体内に注入されるというもの。
ここからは当然治癒能力を取り戻すまで敵の攻撃をいかにかいくぐるかが焦点だと思った。しかし治癒能力を失ったウルヴァリンはそれでも戦う。しかも刃物や銃弾に傷つきながらも倒れない。血を流し苦痛に顔を歪めながらマリコを守ってアクションを繰り広げる。挙句の果て麻酔もかけずに自らの体を切り裂き、心臓の近くにあった治癒能力抑制装置を取り出し見事復活する。
ここまでくると「はいはい、これでもう死ぬことはないし、どうぞ好きにおやんなさい」という感じで、その後のシンゲンとの斬り合いも緊迫感が欠けてしまった。TVスポットの背中に多くの矢を射こまれて倒れる時の「サヨナラ」も嘘だったし(言葉そのものは別のシーンで違う意味で使われているが)。
死んだと思っていたヤシダが実は生きていて、ウルヴァリンの治癒能力を奪って永遠の命を手に入れようとパワードスーツで迫って来ると言う、まるで「恩を仇で返す」ラストの展開に至っては、この作品のテーマかと思っていた「永遠に生きることの哀しみについての考察」を見事に吹き飛ばしてくれた
結局ストーリーを追ってもあまり意味がなく、日本についての変な描写も気にせず(ウルヴァリンが存在するパラレルワールドだと割り切って)、それぞれのアクションシーンだけを楽しむべき作品だと思う。