「ファムケと真田と鞆の浦」ウルヴァリン:SAMURAI 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ファムケと真田と鞆の浦
日本を舞台にした本作、それに対する反応も様々ではあるが、日本人として一番ひっかかるのは広島長崎を軽く扱って欲しくないという点であろうか。ただ過去を振り返ってみれば、アメリカのエンタメ映画は原爆水爆に対して恐ろしく軽い扱いをしてきた訳で、何も本作に限った話ではなく今さら怒れない気もしてくる。20年前の「トゥルーライズ」あたりで一回ちゃんと怒るべきだったのではないかと、それこそ今さらだが思えてくる。
本作では「ナガサキ」が復活の象徴として描かれている。原爆の扱い方に違和感を覚えつつも数あるトンデモ映画の中では数段マシなのかもとも思う。
それ以外の日本描写はどうでもいいというか怒るべきポイントじゃないというか、むしろ面白かった。
ウルヴァリンの日本漫遊記、
なんといっても鞆の浦の風景がイイ。
美しくて心が和む。
この映画、日本を描いた「007は2度死ぬ」「ブラック・レイン」「キル・ビル」等のハリウッド作品からくる印象も強いが、
鞆の浦=宮崎作品などを彷彿とさせて日本映画にも目配せしているなあと個人的には思うんである。
新幹線のシーンもかなり可笑しかった。
日本政府はここ数年新幹線を諸外国へ売り込もうと策を弄している訳だが、ウルヴァリンが屋根に乗って暴れても大丈夫、速い、安全なんてこれ以上のCMあるだろうか?制作側にその意図はなかったかもしれないが、いろいろと日本の宣伝にもなっている。
バカバカしい感じで作ってあっても、新幹線と鞆の浦…ハイテクと自然っていう日本の2大観光要素をきちんと押さえた映画であった。
かつてのFOX映画を振り返ってみれば、「ライジング・サン(1993)」等では当時の経済摩擦を背景にして日本への嫌味を散りばめ、「ブロークダンパレス」等ではロケ地のアジア諸国の神経を逆撫でしてきた訳で、それらに比べれば大人な作りだなあとすら思う。
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作品内容に関しては
ブライアン・シンガー的なXメンは、gift…特別な能力を持つ者たちの苦悩がテーマだが、
本作は、giftを持たざる者の狂気が浮き上がっていて面白かった。
真田広之演じるシンゲンは、特別な能力はおろか遺産すらも相続できなかった可哀相な人物で、そんなシンゲンの逆ギレ感が良かった。
持つ者の苦悩よりも持てなかった者の狂気の方が、個人的には身につまされる。
「ラストサムライ」や「Lost」では真田広之の過剰さにどう向き合って良いか分からなかったが、本作シンゲンにはピッタリの過剰さだったと思う。たっぷりな立回りも良かった。
(蛇足であるが、「特別な能力を持つ者の苦悩」は、Xメンよりもシンガー製作「Dr.ハウス」の方に上手く引き継がれているような気がする。)
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本作監督ジェームズ・マンゴールドの「コップランド」がけっこう好きなのだが、
ウルヴァリンが痛みを感じてゆらーっと画面が揺れるシーンが
コップランドでスタローンがゆらーっと揺れるシーンと似ていてちょっと嬉しかった。
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ここまで長々感想を書いてきて何だが、
この映画で一番印象が強かったのはジーン役ファムケ・ヤンセンだろうか。
ファムケ・ヤンセン、大好きな女優だが、毎晩夢に出てくるのはちょっと嫌だ。
ジーンが永遠の安息…死と愛の象徴っていうのは何となく分かるんだが、ファムケ色、もう少し薄くても良かったような気がする。
ファムケ・ヤンセンって日本料理のワサビみたいな存在で、無いと寂しいけど効き過ぎてもちょっと困るんである。