「善/悪ではなく生/死の価値を巡る闘い」ウルヴァリン:SAMURAI 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
善/悪ではなく生/死の価値を巡る闘い
アメコミ原作映画『X-MEN』シリーズの人気キャラ・
ウルヴァリンを主人公としたスピンオフ作品2作目。
今度の舞台はなんと日本 !
今回の作品は正直、スピンオフとしての前作にあたる
『X-MEN ZERO』ほどの派手さは無かった。
最後のアイツはともかくとしてトンでもない敵ミュータントが
登場する訳ではないし、アクション演出自体もコンパクトだ。
だが、
今まで何をされてもピンピンしてたウルヴァリンが今回は絶体絶命。
とある理由でいつもの治癒能力が発揮できなくなったため、
並みいる強敵を倒してきた彼が、今回はドスやハジキを持った
ジャパニーズヤクゥーザ相手に大苦戦である。
スケールが小さくなったのはその設定のせいもあるかもだが、
その分これまでより戦闘に緊張感が出ているし、
最後の闘いではかなり衝撃的なやられっぷりを見せる。
真田広之を始め、生身でしっかりアクションをこなせる
役者が揃っている点も◎だ。
また、『X-MEN ZERO』が面白そうな要素を色々盛り込みすぎて
ウルヴァリン自身のドラマがハンパになった感があるのに対し、
(ウルヴァリンの経歴/シェイクスピアばりの兄との確執/
X-MEN創設秘話/史実ネタ/多数の新ミュータント……)
今回は物語のフォーカスがウルヴァリンの不死を巡る苦しみに
絞られている分、ウルヴァリンというキャラの描き方については
恐らくこれまでで最も深い。
愛する人を失った悲しみと罪悪感に苛まれるウルヴァリン。
これからも永遠に続くその責め苦で生きる気力を無くした彼が、
再び立ち上がるまでの物語。
事あるごとにウルヴァリンを苦しめる恋人ジーンの幻覚が
随所で利いている。彼が“死”に惹かれる理由も理解できるし、
最後の幻覚が見せる表情は、柔らかく寂しい。
『緩慢に続く永遠の生より目的を持った限りある生を』
という感覚も日本の風土に合っていると思えるし、
ウルヴァリンを“主君を失くした侍”=“浪人”と呼ぶ流れも、
「外国人てホント『浪人』て言葉好きだなあ」と思いつつも、
再び“侍”になる様はやっぱりカッコいいと感じる。
それに対抗する敵の目的が判明する場面では、その執念を
恐れるべきなのか、憐れむべきなのか、複雑な気分だった。
こいつは単なる善悪では括れない闘いなのだ。
ただ、ヒロインのマリコにウルヴァリンが惹かれる描写が
少ない。というか、ヒロインの魅力がちょっと不足。
ウルヴァリンが生きる目的を見出だす上でそこは
かなり重要な部分だと思うので、描写不足が惜しまれる。
個人的には、常に上からなマリコ様より薄幸だが健気な
ユキオの方が可愛らしいと感じたんですけど。
以上!
生/死の価値を巡るストーリーも、変なニッポン(追記参照)
も楽しめました。
アクションにもっと派手さは欲しかったが、
プラスマイナス0で前作同様、観て損ナシ!の面白さ。
そうそう、シリーズファンの方は、エンドロール後すぐ
席をお立ちにならないようにご注意を!
「ウルヴァリン、良かったねえ」というしみじみした
気持ちを完全にブッ飛ばす大衝撃展開が待っている。
ある意味、最大の見所かも(笑)。
次回作、期待大!!
〈2013.9.15鑑賞〉
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追記:
日本人としてはこれまでもさんざんミョーな国として
描かれてきた日本がどう描写されているかが気になる所だが、
ま、思っていたほどムチャクチャなニッポンではない。
まあ強いて言うなら、
全身に刺青入れた いかにもなヤクザが半裸で襲撃してきたり
黒装束のニンジャが無駄に回転しながら大量に登場したり
自動小銃構えた銃刀法違反バリバリのSPがわんさかいたり
剣道の練習で宙を舞ったり葬式を行う寺が中華風だったり
新幹線に天窓が付いていたり灯篭がそこらじゅうに立ってたり
長崎から東京までの距離が異常に近かったり火星探検したり
強いて言うならそれくらいである(爆)。
ところで「父の名誉のために政略結婚に応じる」って、
それ何年前の日本女性の話よ。
いや~、この映画はまだマシな方という気もしなくはないが、
2020年東京オリンピックまでにはもう少し改善されてると
いいんすけどねえ、この摩訶不思議なイメージ(笑)。
ま、広い心で楽しんで観ましょう。