劇場公開日 2013年9月13日

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ウルヴァリン:SAMURAI : インタビュー

2013年9月11日更新
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真田広之が日本人として「ウルヴァリン:SAMURAI」に果たした功績

世界から求められている俳優、真田広之。英国の舞台「リア王」(蜷川幸雄演出)をきっかけに「ラストサムライ」「PROMISE 無極」「上海の伯爵夫人」など次々と海外作品に出演、日本が誇る俳優として世界にその名をとどろかせている。現在、活動拠点とする米ロサンゼルスには、その実力を求めて数多くのオファーが舞い込む。出演の決め手となるのは、その作品が持つ“志の高さ・品格・映画的スケール感”だと言う。もちろん、この秋に日本で公開となる「ウルヴァリン:SAMURAI」もそのすべてが備わっている作品であり、なかでも主演のヒュー・ジャックマンとジェームズ・マンゴールド監督とのタッグは、真田の心を大きく揺さぶった。(取材・文/新谷里映、写真/奥野和彦)

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「過去に、ヒュー・ジャックマンとは2度ほど会ったことがあって、いつか一緒に仕事がしたいですねと話していたんです。なので、ようやくその機会が訪れたという感じですね。ジェームズ・マンゴールド監督も彼の過去作を拝見していて、いつか仕事をしてみたいと思っていました」。2人との仕事にひかれつつ、今回の映画の舞台は日本。自分が参加する意義、使命感も同時に感じていたそう。「原作のアメコミは80年代が舞台で、アメリカの目線で日本が描かれています。現代からみると、それをそのまま撮ると危険だぞ、恐いぞ、という感じもあったので、日本人が見ても楽しめる日本人像にすること──日本で生まれた者として、それはできる、それはできないということをはっきり伝え、少しでも作品に貢献したいと思ったんです」。

また、真田と言えば、演技もさることながら剣術の腕の素晴らしさは、日本はもとより世界が認めている。「ラストサムライ」では、主演のトム・クルーズをはじめとする出演者に殺陣を指導したというのは有名な話だ。もちろん、今作でも華麗な殺陣、ファイトシーンを目にすることができる。真田が演じるのはシンゲン。ある理由で、ウルヴァリンが死に直面する前後に関わる重要なキャラクターであり、後半に用意された対決シーンは、前のめりになって見入ってしまうほどの迫力と美しさとスピード感にあふれている。しかし、その撮影は「意外とスムーズだったんです」と明かす。

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「ヒューとのファイトシーンはリハーサルも少なく、とてもスムースでした。ヒューはウルヴァリンのファイティングを熟知していますし、もともと優れたダンサーでもあるので、振り付けを覚えるのが早い。タイミングやポジショニングも正確なんです。とてもやりやすい相手でしたね。ただ、彼は上半身裸なので、傷つけないように気を付けなければなりませんでした。CGではないので、竹光やアルミでできた刀で戦っています」。肌に触れないとリアルに欠けるため、肌を傷つけないギリギリのところで止めるという離れ技は、真田とヒュー、2人の腕がたしかであることとが大前提。そして、信頼しあっているからこそ成し得たものだと言葉を足す。「刀を受ける側のヒューの正確さもないと無理なシーンなんです。こちらが定位置で止めても彼が少しでもこちら側に押してきたら傷になってしまうので……。でも、彼は必ず同じ位置で受け止めてくれました」

マンゴールド監督が、カットを割らずにできるだけ長尺で撮りたいと思うのは当然の欲であり、「あと6手増やしてくれとか、その場で言ってくるんです(笑)」と、現場で新たにファイトシーンが追加されることを告白。なかでも印象深く刻まれているのは、美しい日本庭園を背景に繰り広げられるファイトシーン。「ヒューが後ろ向きになって下がっていく先が池なんですが、後ろを見ずに下がらなくてはならない。僕がリードするから大丈夫、という言葉を彼は信じて、僕に身を委ねてくれた。ファイティングシーンを撮っているのにダンスシーンを撮っているようでしたね」。リアルなアクションを撮りたいというマンゴールド監督のこだわりを無理難題と捉えるのではなく「役者冥利に尽きます」と笑みを浮かべる。「舞台でも映画でも、準備をしてもそれが生かされないときは悔しいものです。マンゴールド監督はそれをすべて摘み取ってくれる監督、ありがたいですね」と賛辞を贈り、「一緒に仕事がしてみたかった」という真の理由は、マンゴールド監督が「すぐれたドラマメーカーであるからだ」と語る。

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「彼は脚本家としても優秀です。撮りながらどんどんリライトするんですが、どんどん良くなっていくんです。笑いのセンスにしてもやりすぎず少なすぎず、すべてにおいてのバランスがいい。完成した映画を見て、シリーズものではあるけれど、彼の作家性が生かされていると感じました。アメコミの80年代のエッセンスと現代の日本、彼が敬愛する古き良き日本映画──小津(安二郎)さん、溝口(健二)さん、黒澤(明)さん、日本の巨匠たちの世界観から得たエッセンスを彼なりに凝縮して、異国の地に飛びこんできたウルヴァリンのリアクションを引き出すための装置として、今回の作品ならではのオリジナルの日本をしっかりと描いてくれた。最初に彼と出会ったときに感じた“この人なら”という期待どおり、いい作品になっていると思います」

ハリウッド映画が本格的な日本ロケを敢行して作り上げた「ウルヴァリン:SAMURAI」。そこには、日本の文化、日本のサムライスピリットも描かれ、改めて“日本”を感じ、考えることになるだろう。そして、タイトルにもなっている“SAMURAI”については「むしろ精神的な美学を感じる」と、熱い思いを口にする。

「侍は人に仕える者で、そこは忠誠心、潔さ、美学があり、そういった精神的なものが派手なチャンバラよりも海外の人に理解されはじめている、リスペクトされはじめていると思うんです。もっともっと伝えていきたいことでもありますね。僕の世代もそうでしたが、いまの若い世代は自分のルーツ、日本人のルーツを省みずに外国ばかりに目がむいていることがある。ですから、逆輸入じゃないですが、この映画を見て自分たちのルーツに興味を持ってもらえたら嬉しい。もちろん、僕自身ももう一度日本のことを学び直したいと思いました」と話す。さらに、「ひとつプロジェクトが終わってほっとしたときは、日本の温泉に入ってゆっくりしたいなあとか、あのお店のあの料理が食べたいなあとか、日本を思い出します。どうしても食べたくて自分で料理を作るときもあるんですが、微妙に味が違って余計に恋しくなるんですよね(笑)。けれど、そういう郷愁の念を生かして、その気持ちをまた作品に込めることもできるので……遠きにありて(日本を)思っています」

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