「主導権のS。」共喰い ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
主導権のS。
原作は未読なんだけど(受賞時の有名な台詞は覚えてますが)
だいたいの内容はあらすじなどからも見てとれるし、なにより
一番の期待株は主役の菅田将暉、彼の演技を観てみたかった。
少し前に35歳の高校生、というドラマがあって彼が出ていた。
まぁ~小憎らしい顔つきに、小憎らしい台詞と笑い方、アイドル
顔でこんなヒール役を堂々とやる彼がとても素晴らしかったので、
今度はどんな演技を魅せてくれるのかと、とっても楽しみだった。
仮面ライダー当時から知っているという友人は私に、
「フィリップだよ、フィリップ」としきりに言うけど、見てないし~。
どうやら史上最年少ライダーを演じたのが、彼だったらしい。
日活ロマンポルノ風に(かなり意識して)作りあげたという本作。
うーん…ポルノマニアじゃないし、詳しくないので分からないが
女の私が観ても、それほど厭らしさは感じられなかった。
どちらかというと青山真治らしさのほうが随所に感じられた。
役者は皆いい。その菅田くんをはじめ、有名無名合わせて快挙。
特に女優陣の脱ぎっぷりといい、演技っぷりといい、素晴らしい。
昭和という時代(舞台は63年)を暴力前提で描くのだとしたら、
こんな風にドブ川(ってほど汚くも感じなかったが)沿いの臭いと
神輿庫の暑狭、団地の日照りベランダ、タイル張りの風呂場など
かなりきてるぞ感を醸し出す生臭さをふんだんに加えているのが
なかなかそれらしかった。父親の性癖(とでもいうのかな)となる
あの行為は、今ではDV!家庭内暴力!と大騒ぎされるだろうが
私的には「ああいうのがSなんじゃないの?」という感じだった。
日常生活で妻子を殴るのではなく、性行為時のみでということは、
酒乱患者に見られるタイプか、単に変質者か、どちらかと思った。
引っ叩かれたり殴られたりすることに快感を覚える人間はいない
と思いたいけれど、なぜかその相手から離れようとしない女達。
いつか、ダメだと思い離れる時まで心身が持つのかと心配になる。
殴る方は傷つく相手の一体どこに快感を覚えているのだろうか。
それにしても可哀想なのは息子の方である。
あの男、あの男、と夫のことを呼んでは、その血を継ぐ子供など
アンタひとりで十分だと、主人公の母親は何度も息子に言う。
それあんまりじゃないか。この子はアンタの子供でもあるんだよ!
親父の血を継いでいるのが半分、母親の血を継いでいるのが半分、
どうしてこの子をあんな父親の元で住まわせておくんだろう?と
言っていることとやっていることが違うだろう、アンタ?なんて
最初は母親に対してかなり腹を立てていた。
どんな男とくっ付くのも結構だが、子供を産んだのは親の責任だ。
何のどんな血を継いでいようと、ならば一生その子がそうならない
ように見守ってやるのが親だろーが。なんて腹を立てまくったが、
どうやらこの息子は、憎みながらも父を愛し、母をも大切に思って
いる、実に優しい息子であることが分かった。
母親も自分のところへ足繁く通う息子に安堵して見守っていたのか。
彼女である千種と何度も交わるうちに、自分もいつか父のように
女を殴る日が来るんじゃないかとビクビクしている主人公。
おそらくはビクビクしながらも、大きな衝動に駆られていたと思う。
思春期の男の子が、想像を絶する性への興味を持つことは普通で、
ただ実際にそれをやるかどうか、の問題なんだろうと私には思える。
遺伝による性癖になるかどうかは、生きてる環境で決まらないか。
このくだりの例えで後半、千種が素晴らしい一言を彼に吐く。
「アンタのその手は、私を殴るためにあるん?可愛がる為にあるん?」
(その後の行為に要注目)
原作にはないラストの描写まで、ほとんど笑いのないドラマなのだが
あのラストには思わずニンマリしてしまった私。
いいとか悪いとかでなく、本当に好きなんだ…が見てとれたのである。
自分のことを大好きで、愛してくれて、大切に思う気持ちがある人が
もし傍にいてくれるのなら、大いなる欠点が解決できるかもしれない。
女はそういう計画性に於いて、かなりしたたか。
無意識に、抜け目なく、何事もない顔で、確実にそれを実行に移す。
今作に登場する女三人のそれぞれの言い分は(その時点で)
男をビックリさせるものかもしれないけど、よく考えればその通り。
いや~よく喰いまくりましたね、お互いを。
(淡々とした風景の中にうごめくエロと暴力。でも映像は控えめです)