劇場公開日 2013年8月31日

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劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 : インタビュー

2013年8月28日更新
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アニメ界の俊英・長井龍雪監督、セオリーを破り自由に描いた「あの花」

「超平和バスターズはずっとなかよし」――涙を誘ったテレビアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(通称「あの花」)のエンディングから1年後を舞台に、劇場版では5人の少年少女が再び“あの日”に思いを馳せる。ひと夏の出来事を通して、ある事件をきっかけに心に傷を負った若者の葛藤(かっとう)と再生を丹念に描き、社会現象にまでなった同シリーズは、どのように生み出されたのだろうか。仕掛け人である長井龍雪監督が語った。(取材・文/編集部)

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「あの花」プロジェクトは、長井監督、脚本家の岡田麿里、キャラクターデザインの田中将賀という人気アニメ「とらドラ!」を生み出した名チームによって動き出した。「とらドラ!」は竹宮ゆゆこ氏のライトノベルが原作だったのに対し、「あの花」は長井監督初のオリジナルアニメとなった。「テレビシリーズのアニメは、マーケティング的なものなど、ある程度制約があるんですが、わりと自由にやらせてもらいました。今までのアニメだったら『こうやったらセオリーだよね』という部分を、逆に『セオリー通りじゃなくてもいいじゃん』という風にやらせてもらえたんです。制約をつくらずに意識して好きなことをどんどんやるということが、“やりたいこと”“好きなこと”につながったのかなと思います」

こうして生まれた物語は、独特の視点でアニメを送り出してきたフジテレビ系の深夜アニメ枠「ノイタミナ」で2011年4~6月に放送。当初は別枠でのオンエアが予定されていたそうで、「ノイタミナはあとから決まったんです。それも好きなことをやることにもつながってくるんですけど、ノイタミナのコンセプトが若い女性にも見てもらえるようにというもので、深夜アニメの“油ましまし”的なものじゃなくても大丈夫なのではないかということで、地味につくらせてもらいました」と述懐。だからこそ、深夜アニメとしてスタートしながらも、ターゲットを限定せずに広く人々を魅了し、“あの花”旋風を巻き起こした。それでも、長井監督は「僕のなかでは、社会現象って言われてもいまだに信じきれていなくて……まさにキツネにつままれた気分ですね(笑)」と明かす。

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離ればなれになっていた少年少女の再会、淡い恋心、そしてトラウマとなった過去の傷を乗り越えていく成長記――これらのテーマは決して目新しいものではない。しかし、リアリティあふれる描写のなか、現代的な高校生5人の心の揺れ動きを繊細に描くため、“狂言回し”の役割を担う少女の幽霊を登場させることで、「あの花」特有の世界が完成した。劇場版は、テレビアニメを再編成したダイジェストと新たに用意した映像で構成し、別れを経験した若者が小さくも大きな一歩を踏み出す姿を映し出す。

「『劇場版を!』という感じではなかったんですよ、気負いとかもまったくなくて」と総集編として始動しつつも、「過去に秩父でやったイベントでの朗読劇があって、そのときにふわっと考えていた部分がもともとあったので、特に悩まず自然と出てきました」と新たなパートがつくり上げられた。テレビアニメの放送開始以来、イベントや“聖地巡礼”などファンとともに成長してきた「あの花」らしく、「キャラクターたちと、もともとの話のブレはなかったですよね。でも、好きでいてくれるファンの声には応えたい気持ちがあったので、新作部分をつくっていきました。あなるがよく髪をおろすようになったのは、ファンの方の声も聞いて、そっちの方が人気があったから(笑)。そういった意見もすこし取り入れていきました」とファンの熱い思いも組み込んだ。

長井監督はずば抜けた演出のセンスで、「あの花」を筆頭に「とらドラ!」「とある科学の超電磁砲」とヒット作を生み出してきた。「まったく何もないところから、みんなの力でひとつひとつ形にしていく作業がアニメの1番面白い部分で、どんなにありえないことでもありえることでも、全部描けてしまうことが1番の強みなのかなと思います。舞台と重なるかもしれませんが、人のイマジネーションで構成されていくことが楽しいですね」

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