「有害メディアとは?」図書館戦争 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
有害メディアとは?
私は本が好きだ。モバイル機器の発達によりデジタル本の普及が増えている昨今でも、紙媒体を好む人は多い。本の手触り、匂い、そしてページを捲る音。書店や図書館で本を手に取り、パラパラと中身を見る時のワクワク感は本好きの特権だ。そんな本好きにとって図書館はいわば聖地、その図書館内で戦争という殺戮が行われるとは・・・!
本作の舞台は「メディア良化法」が制定された架空日本の近未来。本を読む自由を守るために生まれた図書館隊の奮闘を描く。
原作者である有川浩が、図書館に提示されている「図書館の自由に関する宣言」を見て思いついたという設定の面白さ。青少年に悪影響を与えるポルノやホラーなどの有害メディアを徹底的に排除する世界。確かに情報化社会におけるメディアの在り方が問題になっているが、「チャタレイ裁判」を始めとする表現の自由のための闘いが過去に幾度も起きている。それほど人々は“表現の自由”の尊厳を守りたいのだ。本作には有害図書とされる本がいくつか紹介されている。特に印象的なのは、連続殺人を犯した少年の部屋から見つかったホラー小説を、PTAはじめ良化委員会が有害図書とみなして取り締まるエピソードだ。例えば猟奇殺人などを扱った作品が全て有害だろうか?猟奇殺人を真似する人がいるかもしれないが、ほとんどの人がそれを恐ろしいと思い、主人公の心の闇やそこに至る背景へ思いをはせ、その人なりの感慨を持つものだ。つまり有害メディアとは、メディア自体に問題があるのではなく、受け手側の問題なのではないだろうか?少なくとも本作の中のメディア良化法は、メディアに責任を押し付けて、臭い物に蓋をしているだけなのだ。
さて、本作は『華氏451』のような哀しい結末をたどる社会派作品ではなく、老若男女が楽しめるエンターテインメントだ。『GANTZ』シリーズの佐藤監督だけあり、男子の楽しめる迫力ある戦闘シーンと、女子が楽しめる胸キュンなラブコメディー要素のバランスがとても良い。主演の2人は「ダ・ヴィンチ」誌上の仮想キャスティングで読者投票No.1になっただけあり、違和感のない好演を見せている。ツンデレな2人が織り成す恋愛以前の絶妙な恋心がなんとも微笑ましく心温まる(個人的に、王子様と呼ばれて絶句する岡田の表情がツボ)。
さて、本作はタイトルのとおり図書館内で起こる戦争を描いている。激しい銃撃戦が行われるが、原則として双方とも威嚇射撃以外の銃の発射を禁止している(良化委員のほうではこれを無視するきらいがあるが)。戦闘態勢に入り図書館内に避難命令が出された時、1人の市民が口にする「戦争ごっこ」という皮肉のとおり、検閲する側とそれを拒否する側が、形式的に戦争を行っているようなものである。死人は出ないがけが人は出る。いくら表現の自由を守るためとはいえ、これでは本末転倒な気がする(「ペンは剣よりも強し」の精神はどこに?)。それでも正規の良化委員は、市民を巻き込む戦争はしないが、裏で動くゲリラ部隊はそうはいかない。無差別の殺戮が行われ、図書館が阿鼻叫喚の地獄絵図になるのが何とも悲しい。
私は本が好きだ。しかし本を守るために人が死んではならない。貴重な本をゲリラに焼かれるのを目の当たりにする図書館隊のリーダーの言うセリフが哀しい。「・・・たかが本です・・・。」
たかが本、されど本。このような無意味な戦争が本当に起こる前に、表現する側の責任と配慮を今一つ考えなければならないと思う。誰もが自由に表現できるネット社会に生きる者として自戒の念も込めて・・・。