舟を編むのレビュー・感想・評価
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なんて幸せな気分。
言葉の海に溺れる
言葉の海に溺れがちな人たち。
一番いい言葉は何だろうと探すうちに会話は過ぎてしまって、一番伝わる良い言葉を見つけた時には、もう言い出せない。という経験がある人ならば、誰だって共感する映画。言葉の海を渡りきることってすごく難しいのです。
主人公馬締さんはそんな言葉の海に溺れている人。
とてつもない数の蔵書に囲まれて、日々文を読んで辞書を読んで、言葉の美しさに埋まっているひと。
人が話すスピードは早すぎて、頭の中ではどう返そうか、何を言おうか、とうろたえているのにそれが伝わらなくて、『あいつって変人』なんて言われてしまう。だって世間一般の人にとって、言葉って一つ一つ意味を確かめて使うようなそんなに大切なものではないですからね。
馬締さんの顔が映るシーンも、序盤は目に影が掛かっている事が多い。口がパクパクしていても何も言葉が出てこない。おぼれているからです。
だからこそ、先生の『言葉は世界を渡る舟』という言葉に感激したのでしょう。
言葉に埋もれて身動きが取れなくなるのではなく、自分を人にまで運んでくれる船として使えれば、語彙が多い馬締さんの心は正確に伝わります。
といっても、
選ぶ言葉が正しくても、人に伝わらないと意味がない。
人に伝えることを意識していない文章で、伝えられた人が『意味わかんない!』と怒るのも当然。
『人に伝えること』を意識し出した彼は大きく海に漕ぎ出した。
こんな日常綺麗すぎる!と言われればそれまでですが
文学に溺れている者の日常って、ほんとにこんな感じです。
人と触れあわないのでぶつかることも少ない。
文字と自分の頭の中だけが世界。それ以外はガラス向こうの事。
今のデジタルで取った映像とは違い、35ミリフィルム撮影ならではの画面。
ぼやけた背景にくっきりと浮かび上がる人物が目に飛び込みます。
今まで「デジタル・フィルム論争何てばかじゃないの?」と思って興味がなかったのですが、
これを見るとやっぱりフィルムいいな~、となります。
時代を昔にするなら、このフィルム撮影を組み合わせるべき。時代の古みが出て画面が違和感なくストーリに反映されて、映画の出来も段違いです。
脳汁出そうなくらい美しい。
今回注目俳優は、西岡役オダギリジョー……の相手、岸辺みどり役黒木華です!!
とってもかわいい~
マーくんにメロメロなのもかわいいですし、きちんとマーくんのことを心配して馬締に話したり……両思いカップルってなごみます。
馬締さん初登場シーンに文庫型日本文学全集が映り、
私も持っているのであの表紙を見た時、ちょっとテンション上がりました。
ただ、マヨネーズのキャップは1980年代なら細い口で線状に出るのではなくて、
星型のチューブから直でぶちゅと出てないとおかしいかな~、なんて
辞書作りの過程は面白かった
原作を読まないまま映画館へ。
本職が言葉を扱う仕事ということもあり、辞書作りの過程がどういうものなのかを見るのは興味深かった。「右を説明できるか?」というのは、言葉を扱う人にとってはありきたりな質問だし、物珍しくはなかったが、きっと言葉を普段意識しない人にとってはなかなか斬新な切り口に見えるだろう。辞書を作るということは、ある言葉の側面その一部分を切り取り、固定化させること。なかなか面白かった。
だが、それだけ。
内容としては、好みではなかった。果てしなく長いのに、内容がない。抑揚もメリハリもない。途中うんざりした。ラストも簡単に想像できる。
映画の中は笑いの要素がたくさんちりばめられ、場内も何度か笑い声に包まれた。だが、それだけで面白かったと評するのは安易すぎると思う。松田龍平演じる「まじめ君」の心の移り変わりや恋愛模様、辞書に対する思い、回想シーンなど、とにかく終始綺麗なだけ。人間の心はそれだけではないはず。嫉妬、欲求、羨望など、マイナスな心の部分が全く描かれていないのでどの役柄もうすっぺらい感じがしてつまらなかった。唯一よかったのはオダギリジョーくらい。それでも絶賛というほどではない。宮崎あおいも、今回の演技はイマイチだった(役名「かぐや」も安直な描かれ方で失笑)。
残るものは、「笑った」記憶と「辞書作りすごーい」という思いだけ。残念。映画館で見なくてもいいと思った。
ストンと胸に落ちるものがないまま終わる
馬締ちゃんと仲間達の成長物語
題材が「辞書作り」であることの意味
何より素晴らしいのが、物語のテーマと題材の有縁性がとにかく高いこと。
つまり私が感じたテーマである、「登場人物たちの変化・成長」「社会の変化・成長」「人生を賭けられる仕事」と、辞書作りという題材の持つ意味がものすごくマッチしている。
松田扮する馬締(マジメ)は今の言葉で言うところのコミュ障である。そんな彼が用例採集という一つの行動で、辞書作りという仕事もしていれば、それがそのまま「相手のことを知りたい」というコミュニケーションの根源にも繋がっている包丁屋のシーンが素晴らしい。また、その構造が無理なく成立している脚本、演出も良い。
前半は1995年の近過去を舞台にしていた。そこからの社会変化を言葉の変化で表わすのに辞書作り(作っている辞書は現代語も乗せる方針)という題材はかなり適している。このごろ近過去や、それと現代への変化・対比を描いた邦画が何作品かあったけれど、本作ほど現代と近過去の時代設定が意味をなしているものは少なく思う。
人生を賭けられる仕事についても、辞書作りは発売するまでに10年~20年かかる長期スパンを要する仕事の一つであり、その後も改訂の為に終わりのない作業に身を投じる必要がある。まさに一生ものの仕事を表すのにもこの題材は適している。あの人物があの新聞を見て用例採集をするシーンは、彼の人生はこの時を迎える為にあったのだと感じて胸が熱くなった。この先、自分の仕事について悩みや迷いを持ったときにこの作品を観返すことになるだろう。
そして、あの用例採集に何と書かれたのかを想像させる演出が、他人との意見交換というコミュニケーションの余地を残していて粋である。
100%文系映画
オダギリジョーの役が無限大の優しさを感じさせる人物で、とてもよかった。あんな愛想のない、話しかけても挨拶をしてもろくに返事を寄越さないような松田龍平のような人物に呆れもせずずっとやさしく構ってあげていて本当に素晴らしい人柄だった。オレならと思うと、すぐに口をきかなくなると思うし、ともすれば、陰気くさくて運が下がりそうだとか言って意地悪したり嫌ったりするかもしれない。
松田龍平も猫背で口下手な暗い男になりきって演じていて凄味があるほどであった。達筆な恋文がとても面白かった。宮崎あおいちゃんは凛とした感じが素晴らしく、振り向く度に涼やかな鈴の音が聞こえそうだった。黒木華がコミカルな存在感を発揮していてとてもよかった。
辞書作りという大変に文系のテーマで一貫して描き切ったところも素晴らしかった。登場人物が全員好人物で、悪者がいないところに少し物足りなさがあるような気がするが、しかし安易に悪者を出していたらこのようなピュアな世界にはならなかったかもしれない。純度100%の混じりっ気なしの文系映画だった。辞書作りがいかに大変な作業であるか、きちんと伝わる作業風景が描かれていた。
松田龍平が新進気鋭の石井裕也監督と文芸的な作品に取り組むというのは、お父さんの松田優作が当時新進気鋭だった森田芳光監督と『それから』に出演したときの事を思い起こさせ、非常に感慨深いものがあると思いながら見た。
当時、オレ自身が高校生だったせいか『それから』はなんか変な映画というだけで全然面白くなく、松田優作も『探偵物語』の方がずっとよかったと思った記憶がある。
1996年にホンダのハイブリッドカーCR-Zが道を横切る場面だけちょっと残念だった。VFXでなんとか消せないものだろうか。
辞書にも作った人の人生が込められている
松田龍平に脱帽
「舟を編む」は、松田龍平の代表作になるだろう。
「まほろ町駅前多田便利軒」や「探偵はBARにいる」も素晴らしい演技だったが、
瑛太や大泉洋の個性を生かす、バイプレイヤーとしての資質が勝っていた。
「舟を編む」では、主役の松田龍平が映画の特別な空気を作りだしている。
松田龍平の演技の特質は、渇いたユーモアにある。
それば、社会とうまく馴染めない男の発するユーモアなのだが、この映画の主人公はその典型で、まさにはまり役だ。
「舟を編む」は、笑いをうまく織り交ぜながら、社会とうまく馴染めない男が自分のポジションを見出していく過程を見事に描きだしている。辞書編纂という地味な男を主人公にした「成長映画」はこれまであまりなかったのではないか。
社会人2・3年目の若手にぜひ観てもらいたい映画だ。
オダギリジョーがいいね
家に帰ってさっそく広辞苑をとりだした。電子辞書におされ真夏の枕にも使われなくなり、部屋の片隅に追いやられていたものだ。紙のヌメリを確認するために。紙のヌメリは感じられなかったが、電子辞書にないものを確認できた。電子辞書では調べたい言葉はでてくるが、それ以外の言葉は見ることができない(当方のPCだけかもしれないが)。しかし、紙媒体では調べたい言葉以外の言葉も左右のページに印刷されている。余計といえば余計。ムダといえばムダ。でも、知的欲求なんてそんなところにあるんじゃないだろうか。女子高生会話の用例採集は「キモイ」と言われる。そんなこと言われて作る辞書は10~20年かかる。発売される頃にはそんな言葉は消滅しているかもしれない。でも、言葉の魔力にとりつかれた人間にはそんなこと何の問題もないのだろう。主人公は馬締だが、この馬締くんあまりにしゃべらないのでつまらない。香具矢は「みっちゃん、やっぱりおもしろい」と言うが。それに対して、先輩西岡はチャラ男だ。でも、西岡くんの方がオダギリの表現力もありでおもしろい。出版社に就職するような奴は口では「辞書なんて」と言いながらも、やはり言葉が好きなのだ。
松田龍平さん適役です。
マジメ系男子
とっても素晴らしい映画でした。
なんかいっぱい泣けたんですよね。
観ててやさしくてあたたかな気持ちになってゆくのが判るし。
辞書を作る人たちの物語です。
私は辞書が大好きです。今でこそiPhoneなんかで辞書アプリやツールが役立ってるけど。
電子辞書よりもめくるパラパラ音のする辞書の方が好きです。
広辞苑のような英語の意味も書いてある中型辞書が愛読書だった頃があったし。
お手紙を書くときなどに辞書を開いて正しい言葉を索引したものでした。
それに辞書の匂いとか大好きだし落ち着きますよね。
そんな辞書を制作するプロジェクトチームの映画は心から感動できました。
言葉のプロたちが辞書を完成させるのに長ーい年月をかけていることも衝撃的でした。
正しい日本語を載せるのだから大変ですよね。
観てて今さら聞けない日本語講座な感じで(笑)学ぶこともあったり!
美しくて正しい日本語にビックリします。
だから辞書に愛着がわくと思います。
松田龍平さん演じる馬締光也~まじめみつや~
名は体を表すではないですけど馬締光也はマジメな男性。
仕事は几帳面。人付き合いが苦手。お部屋は本だらけで本の収集家。
そして恋には奥手?!じゃないよーな(笑)積極的かも?!
奥手っぽいんだけどベースは恋愛映画でもあるので展開が見ものです。
愛を伝える手法のシーンは笑えましたが胸にくるものがありました。
松田龍平さんは実際そんなに多くの台詞を発してはいないのにすごく伝わってきた。
存在感は大きくて濃厚なポジションでした。
まわりに登場する人たちのパワーも素晴らしかったです。
オダギリジョーさんも黒木華ちゃんも伊佐山ひろ子さんも小林薫さんも。。。
特に印象に残ったのは馬締光也が大学生のころから住む下宿先の大家さんの渡辺美佐子さん。
大家さんには心を開いてる感があって微笑ましかったです。
なんでも話せちゃうみたいなね。
正直に言えば・・・私自身に馴染みのなかった意味の言葉が登場してきて勉強になった(笑)
普段絶対使わないわよー!な言葉を知れて賢くなった気分にもなれたりして。
それを一生懸命語釈している編集者たちがいるってことに感謝したくなりました。
日々用例採集している姿勢に脱帽です。
観てて感慨深い気持ちになる物語。
そして完成した辞書【大渡海】だいとかい。
その立派な辞書・大渡海が欲しいくらいです。
あったか〜い気持ち
観てる間中ほっこりとあったかくて、ちょっと声出して笑っちゃう、そんなシアワセ。
映画の後こんなふうにホカホカした気持ちになれるって在りそうでなかなかないかもしれない。
それにしても松田龍平という役者は!
演じるのはいつもどこかヘンな人ばかり。
でも彼がスクリーンに現れると、どうしても気になる。そのキャラクターに最初に感じた嫌悪感が消えて、いつの間にか応援してしまう。
何でだろう?声なのか?たたずまいなのか?不思議な魅力を放つ俳優。
この映画でも
かぐや姫のように現れる宮崎あおいはホントに魅力的だけど
ひょろひょろと営業に廻る松田龍平はなんともキモい。
それが観てるうちにどんどん素敵に見えてくる。
何年もかけて辞書を作る、という地味で果てしない仕事も登場人物の成長とともに壮大なスケールとなり、観るものの心を沸き立たせる。
自分ももっと一所懸命に働いてみよう。
そんなふうに思えたのはこの映画のお陰です。
アスペな主人公ですが
アスペな主人公ですが、周りを含めてほぼすべての出演者が彼を温かく見守る善人なのが自分としては好きな部類です。
内容は延々辞書を一から作るという一見地味なストーリーなのにダレずに長時間見せるのは素晴らしいと思いました。
小道具などにも手を抜いてないので冷めることもなかったです。やはり映画でなくてはできないことなんでしょう。
少しだけ気になるところとしては、女性の扱いが・・・。
香具矢がなぜ光也が好きになるのかどうも理由が読めないのと、タケさんが亡くなるあっさり感。岸辺みどりのポジションというか伏線が無さすぎな気が。
あと、余計なことですが。昔の Excelでは 6万5千行までしか扱えなかったですよね。実際やるとしたら苦労しただろうなぁ。
地味を強みに変えた秀作
もともとボソボソしたセリフ回しの松田龍平が、役柄としてもモソモソしたしゃべり方をする役をやったらどうなるか。その回答が本作に出た!
結果的にユニークで魅力的なキャラクターになったと思う。言葉に生きがいを感じる辞書編集者・馬締光也の誕生である。
そして本作がすばらしいのは、辞書編集という地味がそのままイメージされる題材を使って派手さを極力控えめに映画作りできる環境を用意できた点。
だからこそ、鉛筆でメモする音、ページをめくる音、包丁を研ぐ音、煮物を食べる音など、日本映画独特の音による映像表現に成功したのだと思う。
バックにサウンドを使わず、映像と場面の音だけを頼りにキャストの感情伝わってくるところは、日本映画の美しいところ。
これが辞書作りのプロモーション的な部分に光を当ててしまったら映画『ハゲタカ』になってしまうし、働いている人そのものに着目してしまえば『沈まぬ太陽』になってしまい、日本映画が持ち合わせている叙情的な要素がカットされてしまっただろう。
音楽で緊迫感を与えたり、焦燥感をイメージさせたり、また極端な構図のカットが多用され、まるでアクション映画のような演出になったに違いない。
そんなポジションのオダギリジョー演じる西岡は存在する。確かにいるのだけど、そこをスルーせず取り込み、そしてメインはやっぱり地味に辞書編纂に向かうという筋立てがすばらしい。
宮崎あおいも、大河ドラマのツンケンした部分がどうも印象に残ってて不安だったのけど、そこはそれ。芯の強さはそのままに、純粋なハートの馬締に打ち抜かれる割烹美人の役を見事に演じきった。
個人的にはこっち路線をバシバシ出してくれたらと思う。根がキツい人なのか、勝負どころに立つような役どころは、強烈過ぎて引いてしまうのだよね。
その辺の適切なアクセントという点では、オダギリジョー&池脇千鶴のコンビもすばらしい。
会社のわざとらしいよそよそしさや、オフのときのラブラブな感じはリアリティをたっぷりと注ぎ込む。
メイク落とし真っ最中の池脇に足を絡めて愛情表現とか、なんかもう見てる方が気恥ずかしくなる愛情たっぷりの親しさ。こういうのがサイドで入ってくると、作品に情感がグッと増す。
そして何といっても馬締の住んでいる下宿がすごい。
舞台設定では1995~2010年にまたがる時代だというのに、こんなのあるかいなと言いたくなるような古ぼけた下宿を作り上げた。
いかにも安そうなタイル、刷りガラスの入った戸、階段、味のあるゼンマイ時計など、よくもまぁ、こんなアナログ住居を生み出したと感心するほど。
でも、それがまた馬締のアナログな時代感とよく合う。いささかやりすぎじゃないかと思うほどだ。
しかし本作で一番すばらしい点は、編集部の面々が語るセリフのはしばしに言葉への愛着に満ちている点。
これの大元は原作者三浦しをん女史によるのだと思うけれど、スクリーンを通して伝えてきたのは、主幹・松本朋佑を演じた加藤剛をはじめとする役者陣と石田裕也監督の実力だろう。
地味にしみてくる言葉への愛着。これは辞書作りをテーマにしている本作だからこそ、ウソっぽくなく伝わってくる。映画構成的にうまい仕掛けだ。
アクションやカット、バックサウンドに求めず、日本的な叙情表現を出し切った本作は、ひさびさに納得いく日本映画。
それもこれも地味な題材を扱った原作があって、その映画化だということで観客は妙な期待をせず、製作側ものびのびやれたのが功を奏したのではないだろうか。
「大渡海」という辞書作りをプロジェクトほにゃららにせず、じっくりカメラをすえたドラマに観客は引き込まれてしまうだろう。
では評価。
キャスティング:10(こんな豪華な役者陣でバランスの取れた配置がすばらしい)
ストーリー:7(骨子としては地味の極みなのに、退屈しない流れ)
映像・演出:9(最新カメラの美しい映像を使いながら、しかし役者そのものと音にこだわった演出は、とても日本的な叙情感にあふれている)
美術:8(編集部の雑然とした様子や「大渡海」のプロモ用ツールなど、リアリティかつ本気)
セリフ回し:9(ボソボソしているけれど伝わる。誇張していないのに響く。そんな言葉遣いがたくさん)
というわけで総合評価は50点満点中43点。
映画は好きだけど邦画に絶望している人にこそオススメ。
きちんとした日本映画をひさびさに楽しむチャンス。
助演男優賞は加藤剛さんで!
淡々と流れるようなストーリー。
原作未読。
あまり期待していなかったのですが、ほんのりと笑わされじんわり泣かされ予想を裏切られました。
松田龍平演じる馬締くんの、不器用で真っ直ぐなところがとっても可愛かったです。
大家のおばあちゃんに「言葉を扱う仕事してんだから、喋んなきゃ!」と言われて、勇気を出して西岡とコミュニケーションを取ろうとしたり、
(気持ちを伝えるなら)手紙がいいんじゃない?と言われて、果たし状のような恋文を書く馬締くん。見ててニヤニヤしてしまいました。
どもりながら話すときの、なんとも言えない手の動きも、何だかリアルですごく良かった。
脇を固める加藤剛さん、小林薫さんの名演技が光っていました。
加藤剛さんの「言葉の意味を知りたいと思うのは、その人の発言の意味を正確に知りたいと思うこと。それは、その人と繋がりたいということ」(詳細失念)という台詞が強く印象に残っています。
活字好きには心地よい映画
辞書を作る話で2時間以上かけて何を描くのかと思っていたら、これが予想に反して大変面白かった。客の入りはあまり良いとは言えなかったが、これを観に来る人は自分と同じ活字中毒とまではいかなくとも、本を読むのは好きなのだろうなと勝手に思い込んで、同じタイミングで起こる笑い声を聞きながら、久々に客席の一体感を感じて心地良い時間を過ごすことができた。
ただ正直に言って光也と香具矢が相思相愛になるのは少し唐突な感じがする。以前から時々タケさんの所へ来ていて顔見知りというならともかく、この点はもう少し丁寧に描いてもよかったのではないだろうか。
辞書作りは根気というだけに止まらず、言葉に対する愛着(執着)がないと務まらないことがよく実感できた。それに10年以上も利益を生まない事業を続けさせてもらえる環境も必要だ。実際に今の出版社にとって辞書部門は経営的な旨味はないのかも知れないが、商売だけでは割り切れない文化事業として、今後も存続してもらいたいと願う。
魅力的な人たち
辞書を作るという気が遠くなるなるほど時間がかかり、地味で根気のいる作業を題材にしたこの映画、ヘタをすると退屈で眠たい作品になっていたかもしれない。
しかしそうさせなかった作り手たちは素晴らしい。
「川の底からこんにちは」で、主演の満島ひかりちゃんをはじめ、演者の魅力を引き出した石井監督が、本作でもまた登場人物を魅力的に映し出している。
私は主役が魅力的であるというのは、良い映画の条件のひとつだと思っている。
石井監督という人は人間を魅力的に描くのがとても上手だ。その魅力的な登場人物たちに引っ張られてこの映画は退屈しないとても楽しい映画になっている。
上映時間は133分と決して短くない映画なのだが、この人たちのことをもっと観ていたい気持ちになった。
それほどこの映画の登場人物たちは魅力的で好い人たちばかりだった。
ストーリー的には大きな起伏はありませんが、主役の馬締光也にとっては大問題ということが起きたりして、その辺りの内部描写を追いかけて観ていくと、笑えるし、泣けるし、観賞後もとても良い気持ちになれると思います。
好きな作品でした。
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