「6重奏の楽しみ」クラウド アトラス Masatakaさんの映画レビュー(感想・評価)
6重奏の楽しみ
久々に観た映画。こんがらがった6色の糸がなかなかほどけずに終盤まで。むりにほどこうとせずに、その絡みかたを楽しむくらいの姿勢でちょうどよかった。(という意味では、いくら細かく書いてもネタバレにはならないのでは、という変な安心感がある)
各所に(別人として)登場する主要キャストのとても人間的な演技力。急にどーんと見せてくれる美しい映像(冒頭の海岸、中盤のネオソウル、終盤の割れる花瓶が美しかった)、エンドロール前のキャスト紹介ではすっきりと驚かせてくれた。糸はこんがらがったままだけれど、実は相当よくできた名作なのでは、と思わせてくれる感覚で楽しめた。
■ 6重奏
序盤から、異なる時代の物語がこんがらがったまま断続的に描かれる。主要キャスト(トム・ハンクス、ハル・ベリー、ヒュー・グラントなど)がそれぞれの時代に異なる人物として出てくる。時代の数は数えてみると6つで、そのうちcloud atlas sextet(クラウドアトラス六重奏)という曲が登場して全編の主題曲のように流れ、ああ6つの舞台と何か関係があるんだろうな、と察知させてくれる。いわば1人6役がたくさんいる感じだ。
しかし「あれとこれがそんな風につながっているのか〜」とはなかなか納得させてくれない。6役の意味もあるのだろうけれど、なかなかつかめない。糸はこんがらがったまま。ただ、時代の転換部分の描き方が、びっくりさせてくれるくらいうまい。火を使うシーンや、ドアを開けるシーンなど、自然な転換で見せてくれたので助かった。この切り替えが変だと、ただでさえややこしい展開に輪をかけるストレスになっていたかも。なぜ6つなのかは未だにわからない。たぶんたまたまだけれど、六道輪廻の六と関係あるとしたらちょっとびっくり。
■ 信仰が描かれるけど宗教色がない
いくつかの時代では、預言や信仰をとりあげている。しかし(絶対性な存在としての)神さまについては、不思議なくらいノータッチ。よくある無神論とも少し違って、人間を信じる、ということなんだろう。宗教色がほとんどない、、という点でも、ほかの作品とは一線を引いた世界感が出ていたなと思う。
奴隷制度、同性愛、老人介護、人種、善意をけなす者、身分のヒエラルキー、といわゆるマイノリティを意識させてくれるのだけれど、これが主題ではなさそうだ。それよりも多くの時間を使っていたのは、どの時代も、「愛するものを守る」「自分でよく考えて、守るべきことを大切に」ということを貫き通した人々が美しく描かれていた。きっとこれなんだろうな。もう1回、2回と観れば絡まった糸はほどけてくると思う。
パンフレットには「いま、"人生の謎"が解けようとしている」とある。まあそうなのかもしれないけれど、、PRに相当悩んだ感じが出ている。「6つの物語」というキーワードを入れたかったはずだけれど、もしかしたら製作側がNGを出したのかもしれない(単なる推測)安定のハル・ベリーさん、ソンミ役のペ・ドゥナさんがかわいかった。