「この映画について改めて思う事があったのでレビューします」クラウド アトラス グレジャン567さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画について改めて思う事があったのでレビューします
この映画はそれぞれ別々の時代で、国籍も性別も違う者たちが大きな問題に直面してもなお、生き抜こうとする姿を平行して描いています。それぞれの話が最後に繋がるのかな、と思っていたけど、最後まで平行して直接交わる事は無かったです。そこがこの映画の少し残念なポイントですね。バラエティに富んだ6つのストーリーが入れ替わり立ち替わり交差して進行するので、少し付いて行くのが大変ですけど、決して難解な話ではないです。むしろ、この映画のテーマを、主人公達がちょくちょく口に出しているので、分かりやすいくらいです。あと、6つものストーリーを見れるので、満足はするのですが、ひとつひとつのストーリー自体は大した出来ではないかな、と。それと、時間の関係かは分かりませんが、割と重要な部分を端折ってしまっているのでは?と思う場所がいくつか有りました。
観客を飽きさせないように、次々 とテンポ良く時代を変えて行く編集のおかげで、三時間もの間、全く退屈しなかったのはスゴいと思いました。また、音楽を使うタイミングもうまいと感じました。ただ、題名にもなっている「クラウド・アトラス六重奏」がほとんど劇中で出てこなかったのが気になりました。
あとこの映画はエログロが意外と多いので、注意しましょう。
(以下、ネタばれ あり 注意!!)
ユーイングが最後に、一滴から大海が生まれる、と言っていましたが、この映画はその最初の一滴を描いたものの様に思いました。六つそれぞれの物語の主人公は何か大きな事を成し遂げた訳ではありません。後世で神と崇められる事となるソンミ451 も、革命に失敗し、最後には処刑されてしまいます。彼らがそれぞれ成し遂げたことは、一見、大海には何の影響も及ばさないようなちっぽけなものに見えます。ですが、その六滴はやがて大海へと成る可能性を秘めているに違いないのです。
あ とはなんといっても「愛」が重要なキーワードとなってくるでしょう。同性愛や家族愛など、かたちこそ違うけれど、六つ全てのストーリーに「愛」が絡んできます。愛こそが全ての原動力になりうるということでしょう。
「 いま人生の謎が解けようとしている」とはこの映画のキャッチコピーとしてポスターに書かれている文言ですが、私はこの映画のテーマとあまり合ってないような気がしました。私がこの映画を見て感じたのは、「人生とは何か」といった謎解きではなく、「どう生きるのか」といったことだと思ったからです。(これは人によってまた違う考えを持っているとはおもうのですが)この映画の主人公たちは皆一様にさまざまな問題と直面しています。そして選択肢としてその問題を解決するにあたり、簡単なものが用意されています。(ユーイングなら、奴隷のオーティアを見捨てる、フロビシャーならクラウドアトラスを合作ということにする、ルイサ・レイなら原子力発電所にまつわる陰謀を探るのをやめる、といった具合に)しかし、彼らは自分の信念や、自分が正しい・善いと思ったことを信じて、わざわざ困難な道になるであろう方を選択します。そういった行動が一滴の水となり、やがて大海へと変わるのです。私はこの映画はどの時代、どんな状況下であろうとも困難に負けずに正しい道を選択することの尊さを説いているように感じます。
この映画は「輪廻」がテーマとなっているそうで、生まれ変わった姿を同じ役者さんが演じているという話ですが、私は生まれ変わりというよりも、ある人物と多かれ少なかれ血がつながっている人物を同じ役者さんが演じているのでは、と思いました。というのも、2012年に作家のダーモットがパーティー会場で見つめている女性はハルベリーが演じているのですが、同じくハルベリーの演じるルイサ・レイの時代(1973年)とほとんど時代が変わらないからです。ルイサ・レイがよほど早死にしたというので無い限り、パーティー会場の女性(彼女もそんなに若くは見えません)がルイサレイの生まれ変わりだとは考えられません。なので、私は彼女はルイサ・レイの相当遠く離れた親戚ではないかと思います。(ダーモットの前世はアイザック博士で、彼はルイサに恋をしていたから、ルイサと血のつながっているであろうパーティー会場の女性が目に留まったのだと推測します。)
この映画は人と人とが次の世界でも繋がっていく様子を描いています。ある人が行った善い行動が、次の世代の善い行いへと繋がっていく様がうっすらとですが、描かれているのです。演じている役者さんに注目することで、それがより分かりやすくなります。だからあえて監督も最後にスタッフロールで「ネタばらし」をしたのでしょう。
弁護士のユーイングは奴隷であるオーティアを見捨てずに水夫として雇うよう言い、彼が銃で殺されそうになる所を助けます。そしてユーイングは、後に、医者に殺されそうになるところをオーティアに助けられます。
オーティアの子孫は後にアメリカで兵士となり、朝鮮戦争である人物を迫撃砲から救います。そして、ルイサ・レイの父親となります。オーティアが救ったある人物こそ、ルイサ・レイをサポートすることになるボディーガード、ジョーです。ルイサ・レイは原発にまつわる陰謀を阻止することで、多くの人を救う事になります。
戻って1936年、フロビシャーはシックススミスの元を離れ、ヴィヴィアンの元で作曲活動を始めるものの、彼にクラウド・アトラスを奪われそうになり、発砲、殺人未遂を犯し、警察から逃れることとなります。彼は、シックススミスがそんな殺人犯である自分の元に来るだろう(実際、シックススミスはフロビシャーの元へ行った)と考え、愛する彼の人生を、殺人犯である自分をかばうことで破滅させてしまう訳にはいかないと考え、自殺をします。シックススミスは悲しみますが、彼の人生に汚点が付く事は有りませんでした。そんなシックススミスは年老いた後、ルイサ・レイに手を貸し、自らの命をフロビシャーと同じ方法で落としてしまうものの、原発事故を防ぎ、多くの人の命を救います。
一方、2012年の主人公は、ルイサ・レイの本を出版した人物、ティモシーです。ティモシーは老人ホームから脱出する際、仲間の老人を見捨てずに救い出します。そして後に、その老人の機転でピンチを脱出することになります。ティモシーのその出来事を書いた本は、そののち、映画化されることとなります。
その映画を見た人物は、ネオソウルのパパソングで働くクローンであるユナ939です。ソンミ451の友人である彼女を、断片的なその映画のセリフが奮い立たせました。彼女は自身の死によってソンミ451に「外の世界」の存在を知らせるきっかけとなる人物となります。ソンミ451はその後、革命家であるヘチュに救いだされ、クローン革命運動のシンボルとして、革命を率いて行きます。ちなみに、ソンミ451が処刑された後に革命が成功したであろう事が、ザックリーのパートで示唆されています。ソンミ451の像や彫刻が彼女が逮捕前に通信を行った天文台にあったことから、それは推測できます。(政府軍が天文台に突入した時には彼女の像はありませんでした)つまり、ソンミ451やヘチュの死後、革命の象徴であった彼女の像が、革命の転機となった通信天文台に造られたのでしょう。「もう信じている誰か」達の手によって。
そんな彼女を崇める人物が、文明崩壊後の世界にすむ、上にも出て来たザックリーです。ソンミへの信仰はザックリーを助ける事となります。そんなザックリーはメロニムに手を貸すことで、放射能に汚染されつつある地球から他の部族の人達を助け出すことになります。そして最終的には地球外の星への移住を成功させます。
映画的には、ここで一区切りとなります。困難であろうと、善い行いをすれば、より良い世界に繋がって行くのだと、そしてそこでまた人間達は愛を育む事が出来るのだという事が、この3時間の中で語られているのです。