夏の終りのレビュー・感想・評価
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誰のものでもない。
瀬戸内寂聴の自伝的映画。原作は読んでいないが、彼女の生き様は
幾度となくTV等で拝見してきたので、物語の大筋は大体分かる。
面白いか面白くないかは個人の好みに分かれるだろうが、
彼女がこういう生き方をしたのは本当のことで、こういうヒトなのだ。
正に素直で直情的。感情をそのまま人生に捧げている感じ。
可哀想なのは、こういう女に振り回される男たちで、旦那、年下の男、
愛人、確かに男はズルい生き物ではあるが、完全に振り回されている。
最大の不幸は、愛人の本妻と自身の娘が味わったのに他ならないが、
その行いを詫びて、彼女は晩年に尼僧となる。そして今も人気を誇る。
幾つになっても人を惹き付ける魅力のある人なのだと思う。
良い悪いは別として、我儘な女ほどそそるものはないことを実感する。
女の業。なんて言ってしまえば簡単な言葉だけど、
それを本領発揮する女があの時代にどれくらいいたんだろうか。
今でなら「ヤグる」の如く(ゴメンね)、夫の留守に平気で男を連れ込む
主婦が80%越えしているらしいが、あの時代に堂々と囲われたあげく、
いやまだまだ足りん^^;とばかりに、心の向くままに情事に耽る女。
アッパレな女、もともとそういう気質(作家向き?)があったのだろう。
私などがどうこう言える立場でもない(言う気にもならない)が、
男が方々で浮気を重ね、其々の女性が100%好きなんていうのを聞くと、
女の方にだってそういった業があってもおかしくないのかもしれない。
観ていて気持ちいいか悪いかは、己の恋愛観を象徴することになる。
それにしても小林薫が抜群にいい。
満島ひかりとは、現在あるドラマで母の再婚相手と娘の立場で共演中。
何だかその風情がそのまんま出ている感じで、やはり歳の差を感じる。
包み込むような優しさと、週半分ずつ妻と愛人を使い分けるその狡猾さ、
頭のいい男であり嫌味を感じさせない。主人公・知子がこのままでいい
と思わせるささやかな幸福?を与えてくれるのに絶品の男である。
だけど、決して自分のものにはならない。奥さんの手中にもいない。
手に入らないオモチャを欲しがる子供と同じで永遠に憧れ追い続ける。
知子が直情的我儘女であるのと同時に、慎吾もそれを弄んでいるのだ。
自業自得。とはこういうことだな、を感じさせる見事な体現である。
年下男・涼太には刺激があるにはあるが、知子は都合よく利用する。
都合お構いなしに押しかけ、愛人男の話を聞かされる年下男の心情…
涼太とて慎吾に対する畏敬の念と嫉妬が混ざって計り知れないので
余計イライラするのが分かる。聞くのもヤダよね、他の男の話なんか。
だけど知子が完全に涼太の方に靡かないのは、アンタにその甲斐性が
ないからで(ゴメンね)、必死に知子を追う姿には哀れを通り越していく。
夫と子供を捨ててきた女を受け止められる男ではないし、いや、この
知子も結局、誰のものにもならないのだ。さらに次を求める女だから。
(実生活ではその後、抜け殻のような涼太を彼女が支えたらしい)
原作通りの演出らしいが、中盤以降はダラダラと愛憎劇が続きダレる。
他人のドロドロを楽しめる時間にも程度があるんだな、と感じた。
いま振り返って寂聴さんは、過去をどんな風に見つめているだろう。
誰もが過去の過ちを振り返り嘆く瞬間があると思うが、嘆いたところで
大切なものは何も却ってこない。まして今の自分があるのは、その過去
あっての成長だと思うと、あれはムダな時間じゃなかったともいえる。
バカな過ちを犯してしまった後、反省する間もなく復帰するアイドルは
別として(あらやだ、ゴメンなさい)
誰もがそれをトラウマに抱え、もう二度との思いで這い上がろうとする。
だけど二度三度と過ちは起こるもの。幸福のあとにまた苦しみがくる。
繰り返し味わうことで自分を知り、どう生きるかを模索して時を迎える。
振り返って過去を慈しむことのできる人間になれたらいちばんだろうな。
私は瀬戸内寂聴という人が好きだ。
(夏の終りに公開されたけど、まだまだ夏が終わらないわねぇ、今年は)
よくある話で平凡 これでいいのか
知子は一つの殻に閉じ込もっていられない、内に秘めたエネルギーの強さを持つ。夫と子どもがあっても好きな男のもとに走るのは、ひとりの女としてたった一度の人生を生きている証しであり、ふしだらの一言では片付けられない本能的な生きる力を感じる。
そんな知子が愛するのが作家の慎吾。妻がいて、双方を等分に行き来する生活を送る。本来書きたい作品は売れず、多くを語らず、優柔不断な男に惚れてしまうのは何故だろうと考えたところで、これは他人には分からないこと。
それに比べたら、一度は駆け落ちして別れたものの涼太なら無条件で一緒になれる。
魂そこにあらずといった風情の小林薫が上手い。綾野剛も惚れた女がいつまでたっても自分ひとりのものにならないもどかしさに苛立つ男を上手く表現している。
満島ひかりもそれなりに頑張っているが、恋愛経験の不足からか身悶えするような情念が迫ってこない。
男の妻から所要の電話まで受けるのは、屈辱ではないのか。お互い、立場を理解しているなどと綺麗事ではすまされまい。
熊切和嘉監督の演出に“張り”を感じない。
受話器の向こうで妻が曖昧な笑いをこぼすシーンが、かろうじて二人の女の間にある刺を感じさせるぐらいだ。
一緒に暮らした男と女が別れるには相当のエネルギーが必要だ。敢えて女はそれに立ち向かうのか、どうもイライラ感も期待感も募らない。
男と女の関係を描いた作品は数多あるが、当人にしか分からない激情を何の工夫もなく絵にした映画ほど退屈なものはない。
たとえ破断する恋であろうと、未来に希望がある話のほうが性に合っている。
機会があったら本を読んでみたい。
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