曽根崎心中(1981)のレビュー・感想・評価
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長き夢路を曾根崎の、森の雫と散りにけり。
いやあ、すごいものを見た。文楽では同じものを見ているし、なんなら、文楽そのままを映像にしただけなので本筋に何の新しいものなどないのだが、これほどに新鮮な気持ちにさせてくれるとは思わなかった。
野外ロケやセット。通常正面からだけ鑑賞する文楽と違い、お人形が遠征に出てる感があって活き活きとして見える。二人が佇む橋の下を流れる川面に、北斗七星が揺らめいて映されているのなんてとてもロマンチックだった。おまけにカメラアングルも多角的で、「お初を刺そうとする徳兵衛の視線でお初を見下ろす」なんて状況は文楽では味わえない。さらにお初のその瞳が潤んで月の光を照らしている。なんてエモいのだよ。最後、藪の中に折り重ねられた二つの人形は、まるでさっきまでたしかに魂が宿っていた抜け殻のようだった。その姿に吸い込まれるように、僕の心も空虚な感情に支配されてしまった。
そして何より、上映後、観客からは拍手が起こった。起こるべくして起こった。それほどに見事だった。DVD化しないのだろうか。
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