「戦後民主主義と声の政治」浦島太郎の後裔 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
戦後民主主義と声の政治
1946年。成瀬巳喜男監督。若い女性記者である主人公は婦人雑誌の編集長である叔母から「頭はからっぽ」と指摘されている。そんなとき、ラジオで孤島から帰還した元日本兵の叫び(文字通りの叫び声)を聞き、叔母から記事にするようにそそのかされる。元日本兵を探し当てた主人公は、戦後の民衆の苦しみを代表する叫びとして、男を国会議事堂に上らせ、一躍時の人に仕立てるが、という話。
民衆の苦しみの叫びを表面化するために、文字通り単調な叫び声として集約して「代表」すること、しかし、代表者が権力構造に取り込まれ利用されることで本来の民衆の苦しみは見逃されること。英雄願望は一方に従順な大衆を生みだすだけだという衆愚観。戯画的なまでに「代表=表象」問題が集約されている。一人の英雄は実は朴訥とした浮浪者であり、一つの声は繰り返される単調な叫び声になっていることで、「一つであること」がいかにして力を持つかが徹底的にコケにされている。風刺映画というよりほとんどギャグ映画。
静かに流れる成瀬節の片鱗は見えず、これが成瀬映画とはにわかに信じたがいが、瓦礫と化した東京の街は印象的。
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