「名作」乳房よ永遠なれ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
名作
大変な傑作だった。望まぬ結婚を強いられ、実家に戻り歌会に参加した女性が、短歌に込めた悲哀。そしてやがて乳がんとなるが、歌が認められ、新聞に掲載され、東京からきた若い新聞記者と出会う。彼女の生活は抑圧の中にあったが、乳がんとなってから、人生を取り戻すかのように自由奔放となっていく。しかし、それは死の恐怖と隣り合わせで、自暴自棄にも見える。この二重性が強烈に映画を奥深いものにしている。
主人公の病室の窓から見える中庭に縦に伸びる廊下が見える。向かいの病棟には遺体安置所がある。死への一本道を象徴するようなこの廊下の不気味さが画面に緊張感をもたらし、物語の中でも効果的に用いられている。
手鏡ごしに目があう主人公と男性の目が合うショットは大変に印象的で、田中絹代は相当に力の映画作家だなと思った。乳房と言う女性を象徴するものを無くしてから、主人公はむしろ女性として、人として開花していく。その構造自体で、女性に向けられた苦難を描き出す。すごい映画だ。
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