狼のレビュー・感想・評価
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隠れた日本のハードボイルドの傑作!
新藤兼人の昭和30年の作品。
まったく知らない作品だったが、日本的ハードボイルドの傑作。
話は、戦後の闇市時代、現在のようにリストラされて職のない人々が、生命保険の外交員の募集で集まり、結局外交員としてはうまくいかず、現金輸送車を襲う話。いたって普通のおじさん、おばさんたち5人が、悪事の染まって、破滅していく様を、淡々と描く。戦後の焼け跡や、貧しい長屋風景など、ほとんどオールロケの映画。
シナリオがいい。台詞も短く、説明口調じゃない。紋切型に陥りそうな題材だが、乾いたタッチで、リアルに普通に描く。今見ても古さを感じさせない。
とても映画らしい映画。映像とアクション(派手なアクションという意味でなく、登場人物の行動のこと)でストーリーが進む。台詞は、いたって効果としての使い方のみ。説明的な台詞が一切なし。
劇中音楽の使い方といい、影の使い方といい、カットの切れ(テンポ)といいジョン・フォードの傑作「荒野の決闘」を思い出す(というのは言い過ぎか)。
素晴しいのは、ほとんどオールロケだった点。多分独立プロで制作費がなかったためだろうが、これによってリアルな映像になった。まるで、アメリカンニューシネマの先取りである。
役者は、乙羽信子をはじめ、今では有名な人がほとんどでびっくりする。小沢栄太郎、北林谷栄がいい。奈良岡朋子はちょい役だが、なかなかいい雰囲気がでている。
それにはやり、シナリオが素晴しい。普通の人間がいかに犯罪に手を染めるか、そして犯罪を犯したものは、その良心の呵責によって破滅してしまうのだが、その過程を冷徹に追っている凄さ。
戦後の焼け野原がまだ残っている風景や、安っぽい遊園地のシーンなどの風景が、そのまま主人公たちの心象風景のようにみえる。
新藤流クライムムービー
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