劇場公開日 1955年7月3日

狼のレビュー・感想・評価

全2件を表示

4.0隠れた日本のハードボイルドの傑作!

2025年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

興奮

新藤兼人の昭和30年の作品。

まったく知らない作品だったが、日本的ハードボイルドの傑作。

話は、戦後の闇市時代、現在のようにリストラされて職のない人々が、生命保険の外交員の募集で集まり、結局外交員としてはうまくいかず、現金輸送車を襲う話。いたって普通のおじさん、おばさんたち5人が、悪事の染まって、破滅していく様を、淡々と描く。戦後の焼け跡や、貧しい長屋風景など、ほとんどオールロケの映画。

シナリオがいい。台詞も短く、説明口調じゃない。紋切型に陥りそうな題材だが、乾いたタッチで、リアルに普通に描く。今見ても古さを感じさせない。

とても映画らしい映画。映像とアクション(派手なアクションという意味でなく、登場人物の行動のこと)でストーリーが進む。台詞は、いたって効果としての使い方のみ。説明的な台詞が一切なし。

劇中音楽の使い方といい、影の使い方といい、カットの切れ(テンポ)といいジョン・フォードの傑作「荒野の決闘」を思い出す(というのは言い過ぎか)。

素晴しいのは、ほとんどオールロケだった点。多分独立プロで制作費がなかったためだろうが、これによってリアルな映像になった。まるで、アメリカンニューシネマの先取りである。

役者は、乙羽信子をはじめ、今では有名な人がほとんどでびっくりする。小沢栄太郎、北林谷栄がいい。奈良岡朋子はちょい役だが、なかなかいい雰囲気がでている。

それにはやり、シナリオが素晴しい。普通の人間がいかに犯罪に手を染めるか、そして犯罪を犯したものは、その良心の呵責によって破滅してしまうのだが、その過程を冷徹に追っている凄さ。

戦後の焼け野原がまだ残っている風景や、安っぽい遊園地のシーンなどの風景が、そのまま主人公たちの心象風景のようにみえる。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
mac-in

3.0新藤流クライムムービー

2021年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 息子が病気である未亡人矢野あきこは東洋生命に入社する。応募者が全員採用。6ヶ月経って成績が上がらなければクビとなる厳しさ。今の時代とそう変わりはない。

 まだ戦後混乱期。高度成長期のちょっと手前。まだまだ生命保険に入ろうという者が少ない時代なのだ。ウダツの上がらない男女社員5人は強盗するか自殺するかを相談するようになり、郵便車の情報も話合われる。切羽詰った貧乏暮しの面々。乙羽信子がふと地面を見やると甲虫の幼虫がアリに集られてもがいている映像。

 犯罪はおかしてはならない。しかしどうしようもない困窮生活。そうした葛藤と社会情勢をみごとに描いた作品だ。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
kossy