人生劇場 飛車角のレビュー・感想・評価
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任侠文学
"人生劇場 飛車角" シリーズ第1作。
Amazon Prime Video(東映オンデマンド)で鑑賞。
原作は未読。
大正末期を舞台に、真の侠客「飛車角」こと角太郎の運命の変転をギリシャ悲劇を思わせる悲壮感を漂わせながら描く、東映任侠路線の走りとなった名作。陰影の演出が巧みだ。
「任侠文学」とでも形容したくなる情感豊かな人間ドラマが繰り広げられ、男女の機微と男の生き様が胸に迫った。
飛車角の生き様はなんとも恰好が良い。義理を重んじ、仲間から慕われ、女にはモテる。芯のある男だからこそ信頼出来るし、おまけに強いとあっては、男女問わず惹かれないわけがない。漢の中の漢を具現化した存在が飛車角なのである。
そんな彼の義侠心が悲劇を招き寄せているように思えてならないが、曲げてはならぬ一本の筋を通し抜く生き方は素晴らしい。しかし、おとよにとってそんなことは全く関係が無い。
飛車角が刑務所にいる間に、お互いに知らなかったとは言え恋仲になってしまった宮川とおとよ。「俺が出て来るまで待っててくれ」と飛車角は言ったが、寂しさに思わず…である。
義理を貫くのは勝手だが私の身にもなってくれと言いたくなる気持ちも理解出来るし、おとよの視点に立てば飛車角は身勝手に思える。だが、飛車角はふたりの仲を認めるのだった。
おとよを愛しているが故に身を引いたのである。これは愛さずにおれない。忘れられない。クライマックス、奈良平一家に殴り込む飛車角に縋りつくおとよの演技が素晴らしかった。
[余談]
今で言うところの「スピンオフ」の先駆けと云う点にも注目したい。原作の脇役であった飛車角にスポットを当てようと考えた岡田茂氏の目の付け所の良さはさすがの一言である。
意気地
なかなか斬新な終わり方だった。
ともすれば、斬った張ったの仁侠映画とは一線を画す意味もあるのかもしれない。
さあ、ラス殺陣!…の直前で終わる。
思い返せば恋愛映画でもある。
…未練があると泣き崩れる鶴田浩二はオツなものだ。アドリブでもかましてるようなポップな感じな高倉健も新鮮ではある。
何につけても佐久間良子さんは…絶品だ。
物語は仁侠映画というカテゴリーに反して異常に切ない。
一途におとよを慕う飛車角
そして、おとよに惚れ抜いてる宮川
飛車角を想いながらも宮川にほだされるおとよ。
いわゆる三角関係なのだけれど、これに渡世の仁義や意地が絡まり、思うようにはやりきれない。
浜辺で「おとよを幸せにしてやってくれ」と意地を張る鶴田さんの男伊達は身震いする程だ。
ラス殺陣前に、おとよが現れるのだが…このシーンに、この作品の全てが詰まってるとも思える。
一端は飛車角に別れを告げたおとよは、単身殴り込む飛車角に追いすがる。
それを無言で振り払い続ける飛車角。
あなたが死ぬなら私も殺して、好きなの、と、ようやく、ようやく本音をぶつけたおとよを抱き上げ、抱きしめる飛車角。
「俺も好きだ」と一言だけ告げ突き離す。
だけども、もうその手を取り合い生きていく選択肢はない。渡世の義理が男の意地がそれを許さない。
おとよもそれは承知のはずだ。
浮世の未練を捨て去り、ドスを抜く飛車角。
その背中のなんと力強い事か…。
破滅があろうと、死が待っていようと、後退りはしない。一歩を踏み出したそばから、後ろは崖になっていくかのようでもあった。
若いなぁと見始めた本作だったけど、見応えあった。
とあるシーンで健さんが佐久間さんを引っぱたく。
ホントにひっぱたくのだ。
あの大きな手で、結構無遠慮に。
佐久間さんも思わず「痛っ」って漏らす程に。
テストはあんな感じじゃなかったんじょないかなと思える程の不意打ちだ。
佐久間さんに叩かれるっていう気負いがなさすぎる。
驚いた。
今じゃ考えられない。
本人達は良くても忖度が働いたり、当の本人がNGを突きつける事もあるだろう。
凄い信頼関係が出来上がってたのだなあと思う。
役者同士にも、監督との間にも。
それをやってのける健さんの天然さにも驚くのだけど、それを受けて泣く芝居をする佐久間さんが素晴らしい。芝居の段取りとか飛ぶ程の一撃にも思えるのだけれど、その芝居は崩れる事も途切れる事もなく、きっちり照明の中に入ってる。
震えたわ。
いや、当時は当たり前の事なのかもしらないけど、正直その密度が羨ましい。
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