オペラハットのレビュー・感想・評価
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人情喜劇、ロマンティックコメディの傑作。
突然莫大な遺産を相続することになった純朴な男性が、マスコミにさらされ、財産を狙う人々に惑わされる騒動を描いた、人情喜劇の傑作。人間味あふれる描写と、ユーモアを交えたロマンティックコメディでもあり、最後まで飽きずに楽しめる。
とても分かりやすくシンプルな話で、テンポ良く最後まで見れるのだが、クライマックスの裁判のシーンは、少し回りくどく感じた。
農夫たちに農場を買い与えるというのは、当時の不況にあえぐ地方の疲弊を反映したくだりだったのかもしれないね。
理想に過ぎるところがあるかもしれないが、フランク・キャプラ監督の人々に対する優しい眼差しを感じ取ることができるし、世界恐慌を経験した当時のアメリカだからこそ出来た、素晴らしい作品だと思う。
【以下あらすじ】
田舎町で幸せに暮らしていたロングフェロー・ディーズ(ゲイリー・クーパー)は、大富豪だった叔父の死去に伴い、莫大な遺産を相続することになる。
その叔父の財産をめぐり、悪事を重ねてきた叔父の弁護士ジョン・シーダーは、ディーズをメディアから遠ざけるため、コーネリアス・コブ(ライオネル・スタンダー)を起用する。
ディーズは、変わり者だが善良で素朴な男だった。彼は、正体を隠して彼に近づいた女性記者ルイーズ・"ベイブ"・ベネット(ジーン・アーサー)と、恋に落ちる。
また、シーダーが起用したコブも、ディーズに信頼を寄せるようになる。
その一方、シーダーは、ディーズの唯一の親族であるセンプル夫妻と手を組み、ディーズの風変わりな言動に目を付け、訴訟を起こして、財産の管理能力が無い(無能力の)宣告を勝ち取ろうとする、、、。
【”NYの人は人間の生き方を忘れている・・。”巨額な遺産相続をした善良で、真の金の使い方を知る賢人たるシンデレラ男を巡る物語。ラストの法廷シーンは名シーンである事は間違いない作品である。】
■田舎町で工場を営むディーズ(ゲイリー・クーパー)は、母の兄にあたる大富豪センプルが自動車事故で亡くなった事で2千万ドルの遺産を引き継ぐことになる。
一躍時の人となった彼に会おうと新聞社や腹に一物を抱えた人々が押し寄せるが、彼は誰にも会おうとしない。
そんなディーズに新聞記者・ベイブ・ベネット(ジーン・アーサー)は色仕掛けで接近しようとする。
◆感想<Caution!内容に思いっきり触れています。>
・ディーズの”変人”と言われながらも、チューバを愛し、絵ハガキに詩を書く副業を持ちそれを楽しむ姿が良い。
ー 彼は、人の目は気にせずに、自身の信念に基づき生きる男である事が良く分かる。-
・そんなディーズに特ダネを取るために近づく新聞記者、ベイブ・ベネットはメリー・ドーソンと名を偽り、彼の生き様を目にする。
ー そこで、彼女が観たのは善良で、漢気が在り、聡明で、稚気をもある魅力的な男だった。最初は特ダネを取るためだったベイブ・ベネットはそんな彼に惹かれていき、ディーズも彼女に惹かれていくのである。-
■2千万ドルの遺産を引き継ぐことになった彼には、大富豪センプルの親類の愚かしき夫婦やセンプルの弁護士シーダーが同じく近づいてくる。シーダーやセンプルの会社の役員たちは会社の金を横領していた事を隠すために、ディーズを陥れようとする。
一方、ベイブ・ベネットはディーズの姿を見て、自分のしている事が嫌になり、新聞社を辞めるのである。
・ディーズもメリー・ドーソンの本当の姿を知り、人間不信になり故郷へ戻ろうとする。
ー このシーンの哀し気なゲイリー・クーパーの表情は特筆モノである。-
・そんな時に、彼の家に土地を奪われた貧しい農夫が銃を手に乗り込んできて、”世の金持ちたちが如何に貧しき人達から搾取しているか、冷たいかを切々と語るのである。
その言葉を聞いたディーズは故郷に帰る事を辞め、貧しき農民たちの為に遺産を使い農場を大量に購入して、3年後にはその土地を農民たちに渡すことを思いつくのである。
・それを知った愚かしきシーダーやセンプルの会社の役員たちは、ディーズの事を躁うつ病であるとして財産を管理する能力がない事を審問会で訴えるのである。
ー それに対し、ディーズは弁護士も雇わず、証言もせずに沈鬱な表情で黙るのみ。だが、そんな彼の姿を見て、ベイブ・ベネットは制止を振り切り証言台で如何にディーズが善良なる男かを涙ながらに熱弁するのである。-
■その姿を見たディーズは漸く、証言台に立ち自身の行いの変人さを認めつつ、”誰でもなくて七癖がある。”と裁判官や、博士や愚かしき大富豪センプルの親類の愚かしき夫婦の癖を揶揄った後に、シーダーの主張に対し、悉く反駁する。
そして、裁判官は”この法廷で最も正気な男”と宣言するのである。
その言葉を聞いた農民たちは狂喜乱舞し、そんな彼らを扉の外に追い出してディーズとベイブ・ベネットは、キスを交わすのである。
<今作は、人間の善性を心から信じる名匠、フランク・キャプラ監督の善良なる資質が見事に開花した作品なのである。
法廷シーンのラストの高揚感も素晴らしき、見事なる作品であると、私は思います。>
『農業計画を持つ者にお金を出資する』✘インフレ✘
多分、幸福度を財産と見る功利主義そのもの。
しかし、
『農業計画を持つ者にお金を出資する』この考えでは、インフレをまねくだけ。兎に角、アメリカはこの時代は1930年の恐慌後の事で、ニューディール政策もままならず、戦争の影が迫っていた時代。希望をもたせようと、表現するのは良いが、打つ手はひょっとしたら戦争しかなかったのかもしれない。
チューバと言う楽器や恋愛と報道。色々ストーリーは展開するが、話の主要部分は後半の法廷。
さて『戦後』になってゲーリー・クーパーはこの映画の様な場面に遭遇している。ハリウッドの赤狩り旋風裁判だ。勿論、彼は保守派の人物だが、この映画とか、左翼リベラリストの監督の演出に付いた影響で、そう言った場面に無理やり登場させられる。
ハリウッドにおける赤狩りは、この映画の様に、混乱を招いただけだった。と理解すべきだ
あの大量●●兵器と同じだったのではないだろうか。
遺産2千万ドル
2002年には『Mr.ディーズ』がリメイクされた。新しい方は視覚効果やアクションで見せていたが、こちらは軽快な会話を楽しむ映画。チューバを吹く姿と何でも詩にしてしまう有名な絵葉書詩人ところがユニークだ。長身でひょうひょうとした態度は当時のスターを予感させる雰囲気。ハリソン・フォードに喩えたら失礼だろうか。
「スワニー河」と「ユーモレスク」が意外とピッタリきていることも驚き。彼のことを記事にしたメアリーはピューリッツァ賞を取っちゃうし・・・求婚されるのとどっちが得なんだろ。それにしても、大恐慌時代を象徴するかのように農民のために1800万ドルを放出ってのも、すごいんだかなんなんだか・・・無精ひげが渋かった。でも裁判は痛快ではあるけれど冗長気味。
ゲイリー・クーパーに具現されるアメリカのユーモアに溢れる理想的善人
分かっているはずなれど、それでも尚、思わず拍手を送りたくなる主人公ゲイリー・クーパーによる法廷での見事な逆転劇。実に良く練られたストーリーと台詞展開。そして、知性とユーモアを合わせ持ち貧困者に仕事を与える米国富豪者の理想像を、演技を意識させず体現するゲイリー・クーパー。これこそがスターということか。
田舎からニューヨークという都会に来た巨額な富の有名遺産相続者に、やり手女性新聞記者ジーン・アーサーが記事欲しさに薄幸な女性を演じて相手の懐に飛び込むのが、1930年の米国映画ながら日本で考えれば今風に感ずるのは興味深い。日本の女性記者の活力が、90年遅れでようやく米国に追いついたということか。
最後、逆転劇にわき立つ中一人だけポツンと取り残された様に見えたジーン・アーサー、しかし、こちらも逆転しロマンスも成就という展開もハッピーエンドはお約束ながら実に上手い。フランクキャプラ監督作を見るのは或る夜の出来事以来だが、改めて素晴らしい名人芸の監督と思えた。是非、他監督作品も見てみたい。
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