「丁寧なライティングで光と影をコントロール、念入りに計算された構図で撮影された同作はまさに映画芸術。」犬神家の一族(1976) 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
丁寧なライティングで光と影をコントロール、念入りに計算された構図で撮影された同作はまさに映画芸術。
惜しまれつつ25年7月27日(日)閉館を迎える丸の内TOEIさんにて「昭和100年映画祭 あの感動をもう一度」(3月28日(金)~5月8日(木))と題した昭和を彩った名作42本が上映中。本日は市川崑監督『犬神家の一族』。
『犬神家の一族』(1976/146分)
ご存じ角川春樹事務所第1回作品、横溝正史作の長編推理小説を巨匠・市川崑監督が独特の映像感覚で描く日本映画の金字塔。
今回は2021年に修復された4Kデジタル版での鑑賞。
オリジナル35mmも光と影のコントラストと整然とした構図の美しさが特徴ですが、より黒がしまり大広間の襖の金箔も鮮やかで思わず溜息が漏れるほど。
丁寧なライティングで光と影をコントロール、念入りに計算された構図で撮影された同作はまさに映画芸術。
光と影と構図が登場人物以上に多くを語りかけますし、凄惨なシーンさえも美しさを感じます。
テンポもメリハリがしっかりされており、随所にコマ落としなど活用、中弛みさせないところも巨匠・市川崑監督の真髄、職人技が垣間見ました。
先日高倉健氏が金田一耕助を演じる東映版『悪魔の手毬唄』(1961)を鑑賞しましたが、同作では原作通りアメリカ帰りで愛車はスポーツカー、美人秘書を従え喧嘩も滅法強いマッチョな金田一に驚きましたが、本作では二枚目半で「神の使いのような無名の風来坊」を新たに創造していたことにも驚嘆です。
キャスティングも石坂浩二氏の金田一耕助、以後レギュラーになる加藤武氏などベストな配役ですが、中でも犬神松子を演じた高峰三枝子氏の高貴な風格、大量の返り血を浴びても実に美しかったですね。
『新世紀エヴァンゲリオン』『古畑任三郎』でもオマージュされている独特の文字デザイン(タイポグラフィ)も今観ても斬新。
そして何と言っても本作が劇映画初挑戦の大野雄二氏の劇伴。
テーマ曲「愛のバラード」は陰惨な物語のなかでの、美しいメロディの清涼感が強く印象に残ります。
公開当時も1976年度邦画第2位の特大ヒットでしたが、50年経った現在公開しても、これだけの完成度、ヒット確実でしょうね。とにかく出来が良いですね。