「幸せなんて、このスプーンの上のシュガーみたいなものね…」スプーン一杯の幸せ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
幸せなんて、このスプーンの上のシュガーみたいなものね…
WOWOWの放送(あなたの映画館)にて。
1975年春公開の松竹・サンミュージック提携作品。桜田淳子初主演作。
WOWOWが視聴者のリクエストに応える番組でこの作品を採用したのは英断だ。
それほど本作が良い作品だということではない。17歳の桜田淳子を切り取ったこの映画を観る機会には、そうそう巡り会えないと思うからだ。
前年の冬休み興業(正月シーズン)で山口百恵の主演第一作『伊豆の踊り子』が公開され、ヒットしている。
デビュー時から人気面で圧倒していた桜田淳子だが、山口百恵は路線変更した変化球で攻勢に転じていて、この初主演映画対決で迎撃するはずが、その後の明暗を決定づけてしまった感がある。
山口百恵は引退する1980年までに13本の映画に主演、桜田淳子の主演映画は5本で終わっている。(森昌子を加えた3人で主演した劇映画・ドキュメンタリーを除く)
とは言うものの、この年の桜田淳子はブロマイド売り上げ1位を獲得するなど、トップを独走していた。
…間もなく山口百恵はカリスマへと昇華していくのだが。
この映画は、当時若者から絶大な支持を得ていた落合恵子のエッセイ&短編小説集から題材を得ているにも関わらず、なんとも不完全燃焼の作品である。
桜田淳子を全面にプッシュするアイドル映画なのに、黒沢年雄(年男)を相手役にしたのは、暴挙と言っても差し支えないだろう。
多感な十代の少女が、叶わぬ恋で少しだけ大人に近づく様子を桜田淳子は瑞々しく演じているのだが、脚本も演出も支離滅裂で彼女の魅力を活かせていない。
そもそも、教師と母親との三角関係という際どい題材をアイドル主演の青春映画に仕立て上げるには、相応の覚悟で挑んでいなければならない。
それなのに…この大人たちの罪は重い。
逆の見方をするならば、この酷い内容にあって、確りと輝きを放っている桜田淳子こそ、トップアイドルのトップたる所以だろう。
監督の広瀬襄は、森田健作主演の学園ドラマなどを演出していたことで抜擢されたのだろう。
脚本チームには原作者の落合恵子も加わっているのだが、お飾りだったか…
オープニングは晴れ着姿での花見のお茶会、高校では制服姿とバドミントン部の白いユニフォーム姿、法事の喪服姿まであって、ファッションショー的な演出はアイドル映画らしくはあった。
同級生役の共演者たちは概ね歳上で、桜田淳子のハツラツさを強調する役目にもなっていた。
翌年の春、再び落合恵子に材を取った桜田淳子主演第2作『遺書 白い少女』が公開されたが、こちらもヒットとはならなかった。
田中健が相手役だったことくらいしか覚えていない。
その後、山口百恵に国民的アイドルの座を明け渡し、歌手活動も縮小して女優活動に主戦場を移した桜田淳子は、大人の女に脱皮すると共に実力をメキメキ発揮し、舞台、テレビドラマ、映画に活躍の場を広めつつあった。
そんな時の衝撃的な芸能活動休止は残念だった。