フロウ氏の犯罪
解説
「グレート・ワルツ」「婚約リレー」のフェルナン・グラヴェ、「ゴルゴダの丘」のエドウィジュ・フィエール、「舞踏会の手帖」「どん底」のルイ・ジューヴェが主演する映画で、ガストン・ルルー作の小説を素材として、「舞踏会の手帖」「格子なき牢獄」の台詞を書いたアンリ・ジャンソンが脚本と台詞を執筆し、「激情の嵐」「人間廃業」のロバート・シオドマクが監督に当ったもの。助演者は「どん底」「乙女の湖」のウラジミール・ソコロフを始め、「赤ちゃん」のジャン・ペリエ、「かりそめの幸福」のアルヴェル、「望郷(1937)」のフィリップ・リシャール、「雪山の騎士」のジム・ジェラルド等である。音楽は「赤ちゃん」「海のつわもの」のミシェル・レヴィーンが担当し、キャメラは「狙われた男(1937)」のルネ・ガウオー、「地中海」のジャン・バシュレ、「女だけの都」の助手アンドレ・トーマが分担している。
1935年製作/フランス
原題または英題:Mister Flow
ストーリー
パリは夏である。暑いアパートの一室で、依頼者のない若い弁護士アントナン・ローズは昼寝をしていた。そこへメルロウと呼ぶ男が現われて妙な依頼をした。彼はイギリスの男爵スカーレットから命ぜられてきたもので、召使のデュランがネクタイ・ピンを盗んだので、腹を立てた男爵は彼を訴訟したが、後で考えてみると可愛想だから、彼に弁護士を頼んで罪を軽くしてやろうというのである。メルロウは準備金として二千フランの大金を渡して帰った。ローズは刑務所へ行ってデュランに会ってみると、彼は大の男のくせにめそめそ泣いてばかりいるような哀れな奴だった。所が彼は泣きながらローズに次の事を頼んだ。彼はエレナ・スカーレット夫人から一つの鞄を頼まれている。それには夫人の名誉に関する書類が入っているが、刑務所に入れられた身ではそれを夫人に渡す事もできないから、自分に代ってその鞄を夫人に届けてくれというのだ。エレナ夫人は物凄い美人だと聞いた若いローズは、言われた場所から鞄を持出して夫人の許へ届けたが、果して一目でエレナ夫人の魅力に捕われてしまった。そして彼は夫人の言うままになっていたが、どうも彼女の正体には怪しい所がある。彼女はまるで子供の様に無邪気な態度で、夜おそくローズを連れて他人の家に忍びこみ、首飾りを取って来たり、金庫を破ったりするのであった。しかもその後には必ずミスター・フロウと記した名刺が落ちていた。フロウ氏こそ、世界中の官憲を煙にまいて横行する有名な世界的怪盗だ。ローズは次第にエレナの正体をつきとめた。つまりフロウ氏というのは、刑務所にいるあの間抜けた泣き男である。彼は犯罪がばれそうになったので、故意に馬鹿げた小泥棒となって刑務所へ入った。しかも外ではフロウ氏の名刺が犯罪現場に残されているから、まさか本物がデュランである事には誰も気がつかないのだ。彼は刑務所の中からメルロウを通してエレナとローズを近づけ、このはやらない弁護士を利用したのだ。エレナはフロウの命令で男爵夫人になったので、実はこの怪盗の情婦なのだ。然しローズがそこまで考えついたときは、すでに心をエレナに奪われていたので、ずるずると引きずられていく他はなかった。所がフロウ氏の巧妙な計画にも、思わぬ所に手抜かりがあった。それはエレナの方も若い弁護士を本心から好きになってしまったのだ。かくてデュランの公判の当日が来た。ローズは神聖な法廷で虚偽の陳述をする事を恥じたが、デュランの正体が判れば愛するエレナも自分も共犯の罪になる。結局デュランは唯の小泥棒として一年の刑に服し、エレナは足を洗ってローズと旅立つ事となった。思いもかけぬ二人の恋を怒りながら、フロウ氏はデュランとして当分は刑務所で暮さねばならぬのである。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ロバート・シオドマク
- 脚本
- アンリ・ジャンソン
- 原作
- ガストン・ルルー
- 台詞
- アンリ・ジャンソン
- 撮影
- ジャン・バシュレ
- アンドレ・トーマ
- 美術
- ロベール・ジス
- 音楽
- ミシェル・ミシェレット
- 指揮
- Pierre Chagnon