アトランティド

解説

「脱走兵」の原作者で、フランス通俗作家として有名なピエール・ブノアの筆になる小説を映画化したもので「炭坑」「三文オペラ」のG・W・パブストが監督にあたった。脚色者は「炭坑」「死の銀嶺」のラディスラウス・ヴァホダ、撮影担任者はオイゲン・シュフタン、主なる出演者は「ニーナ・ペトロヴナ」「愛国者」のブリギッテ・ヘルム、「西部戦線一九一八年」「死の銀嶺」のグスタフ・ディースル、「青の光」のマチアス・ヴィーマン、テラ・チャイ、ウラジミル・ソロコフ等の面々である。

1932年製作/ドイツ
原題または英題:The Mistress of Atlantis Die Herrin von Atlantis

ストーリー

二ヶ年のアフリカ駐在の任務を終えて故国フランスへ帰らんとしている外国人部隊の士官サンタヴェイ大尉は重く閉じた唇を開いて恐ろしい過去の思い出を語るのである。--彼は数千年前、華やかな文化と共に海底に沈んだと言われる銅の都アトランティス、それは今なおサハラ砂漠の中に埋もれている、を目のあたり見たいと言うのだ。二年前の事、未だ中尉だった彼は親友のモランジ大尉と共にサハラ地方を旅行した。その時彼等は砂漠の中で一人の黒布で覆面したチュアレックを救ったが、案内者が何者かに殺されたため仕方なく救ったチュアレック族を案内者として進む中に一夜不意に何者かにの襲撃を受け気を失って倒れている中に何処へともなく運ばれて行った。気がついた時には彼は柔らかな寝室に寝かされ若い黒人の女に看護されていた。驚いた彼はまず第一に親友モランジの安否を訊ねるが、女は唯黙って不思議な老人の許に案内した。そこで彼はこのチュアレック族を支配する不思議な女性アンテネアの事を、彼女に魅惑された白人の男から知ったのである。程なく彼はアンテネアの許へ呼ばれた。ヴィナスの顔にディアナの肢体、アンテネアの不可思議な美は忽ち彼を虜にして、凡てを忘れさせてしまった。けれども彼女は一度姿を見せたきり再び彼と会いはしない。悶々の幾日かを過ごしたある日彼は不図黒人の女の口からアンテネアは誰か他の人に思いを寄せていることを知った。嫉妬に燃え我を忘れて彼は女の部屋へ躍り込んだ。そしてそこに執拗にモランヂをかき口説いているアンテネアの姿を見た。モランジは頑として彼女の愛を受けようとはせず奮然として立ち去った。怒りに燃えたアンテネアは彼の耳に恐ろしい言葉を囁いた。「あの男を殺せ!」今はアンテネアのため意志もない体となったサンタヴェイは夢中で親友モランジを倒してしまった。そしてアンテネアの許へ引き返した時、彼女は室の中央に黒衣で蔽はれた自分の大理石像を冷然と眺めていた。茫然と立ちすくんだ彼は殺人の故を以て捕らえられ牢獄に引かれた。然し幸いにも彼に思いを寄せていた黒人の女の助けによって辛うじて牢を逃れ幾多の危難の後にようやく外国人部隊にたどりつく事が出来た。かくサンタヴェイ大尉が語り終えた時、要塞の兵士が怪しげな覆面の男を捕まえて来た。大尉は彼を見るや急ぎ近寄って挨拶を交わした。覆面の男がまもなく放免され砂漠の地平線の彼方へ消え去った跡をいつまでもいつまでも眺めていた。翌朝、フェリエル中尉はサンタヴェイ大尉の行方不明を知り捜索隊を組織して後を追った。白い砂の上には一條の駱駝の足跡が遠く遠く地平線に続いている。然しその時、黒い雲を先陣に濛々と砂漠の嵐が吹き起こって来た。フェリエル中尉は大声を上げてサンタヴェイ大尉の名を呼ぶ。が風は答えようとはしない。忽ち僅かに残った大尉の足跡を消して行ったのであった。

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