拳闘王(1930・ドイツ)
解説
ドイツの生んだ世界的重量拳闘選手として知られているマックス・シュメリングが主演する映画である。マックス・グラスの書いたストーリーからフリッツ・ロッターが脚色し「王城鬼バルサモ」「パッション(1919)」に出演したラインホルト・シュンツェルが監督し、ニコラス・ファルカシュが撮影した。主役を助けて舞台出のレテーナ・ミューラー、「トロイカ(1930)」「ムーラン・ルージュ」のオルガ・チェホーワ、「嘆きの天使」のクルト・ゲロン、「東洋の秘密」のユリウス・ファルケンシュタイン、ルドルフ・ビーブラッハが出演する。
1930年製作/ドイツ
原題または英題:Love in the Ring Liebe im Ring
ストーリー
牡牛のマックスと綽名されたマックス少年は、母親と共に市場へ果物売りに出かけて貧しい生計を樹てていた。或る日のこと、いつものように母親と市場に出かけたマックスがひどくぼんやりしている。心配になった母親がちょっと様子を見ているとマックスの視線ははるか遠くに落ちている。落ちたところ矢張り市場に店を出している魚屋の娘ヒルデの栗色の腕の上である。これが将来の大拳闘家マックスの初恋であった。或る日マックスは恋人のヒルデと町に掛った見世物を見に出かけた。番組がすすんでトリになると逞しい力男が出て来て誰とでも拳闘をやろうという。力自慢のマックスは早速舞台にとび上がった。が、もちろん素人の彼は力男の敵ではない。散々に打ちのめされて家へ帰って来たが、その彼の中に拳闘家としてのよい素質を見出したのは二人の勝負を見物していた拳闘家のマネージャーである。彼はマックスの母親と話をしてマックスを引取り思うまま彼を仕込んだ。流石マネージャーのにらみは違わず彼はドイツ第一流の重量拳闘家になった。しかし金が出来、名前も上った頃常に持上がるのは女の問題である。マックスは或る金持ちの夫人を知った。年増盛りの夫人の愛撫は、魚臭いヒルデのそれよりはマックスにとって比べものにならないほど快いものとなった。マックスは全ドイツ重量拳闘選手権争奪戦を目の前に控えながら夫人との睦言に時を費やしていた。マックスから素気なくされてもなお彼を愛しているヒルデは彼を諌めた。そして夫人の愛する者は彼ばかりでなく数多くの男性であることを彼に告げた。ヒルデの言葉から嫉妬にかられたマックスは突然夫人を訪問する。ヒルデの言ったことは正しかった。彼は散々夫人を罵って夫人の家を飛び出してしまう。夫人に対する面当てにも彼は選手権を獲得しなくてはならない。マックスは怒りと勇気で全身を固めた。愈々拳闘大試合の日。ベルリンの拳闘場には早朝から見物人が詰めよせた。やがて試合開始のサイレンが鳴り渡る。二人の拳闘選手はリングに上った。けたたましいベルの音。1ラウンド。2ラウンド。勝負は進んでいよいよ最後の決戦である。白熱した見物人の中にマックスはふと夫人の姿を見た。ハッと思った瞬間マックスは打ち倒された。ワッと湧く見物人。併し彼はそのままでは済まされない。体中の力を奮い起して立ち上がると女に対する満身の恨みをこめた一撃を相手の顎に--。みごとノックアウト。そして天か晴れドイツ重量選手権をかち得たマックスはまっすぐにヒルデの許に帰った。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ラインハルト・シュンツェル
- 脚色
- フリッツ・ロッター
- 原作
- マックス・グラス
- 撮影
- ニコラス・ファルカシュ