「驚異としか言いようのない作品」メトロポリス(1926) H・Hさんの映画レビュー(感想・評価)
驚異としか言いようのない作品
2時間半、弁士付き上映。
世界大戦敗北後10年たってないのに、よくこれだけの映画がつくれたことに驚きと賞賛です。特撮技術なんてろくに無かったでしょう。高層ビルなんて一見してスカスカのハリボテとわかります。しかし、それはかえって物語を引き立たせていたとも言えます。歌舞伎の背景が「書き割り」なのが、観客の視線を役者に集中させるように。それでも、アリのように小さな自動車がたくさん動いている遠景などどうやって撮影したのかわからないようなのもありました。
未来世界で毎日遊んで暮らせる上級国民と、まさにアリのように働かされる下級国民。労働者が皆まっくろに汚れた服を着て、集団で移動する。首うなだれ、ロボットのように歩く。生きることに何の希望も楽しみも無いようすが重々しく伝わってくる。そこここに演出・演技の秀逸さがひかります。クライマックスの大破局、何百人もの人が暴動に走り、また何百人の子供が大洪水の中を逃げまどう。それこそCGではないナマの迫力と実の演技に圧倒されます。
主演のブリギッテ・ヘルムは、清純な乙女マリアと、邪悪な人造人間マリアの両方をよく演じ分けていました。意外なところに日本がでてきた。「ヨシワラ」が大歓楽街とヨーロッパにまで鳴り響いていたというのもオドロキ。
ひとつ難は、2時間半やっぱり長かった。くどくどしいシーンがしばしばあったと思う。
第二次大戦はこの12年後、出演していた少年たちの多くが戦場で命を落とし、ほかの人々も戦災で塗炭の苦しみを味わったであろうと思うと、本作にはまた考えさせられるところがあります。
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