ロビンソン漂流記のレビュー・感想・評価
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ロビンソン狂いそう
ダニエル・デフォーの原作はご幼少のみぎりに「少年少女世界名作全集」か何かで読んだきりなので、どのくらい忠実な映画化なのか判断できないのだが、ブニュエルにしたらあまりひねりのない作品ではないだろうか。オーソドックスな作風から始まって次第に個性を開花させていく監督は多いが、ブニュエルは最初から「アンダルシアの犬」ですからねぇ。メキシコ時代も数々の変てこりんな作品を撮っているので、それに比べると。
孤島ものはアメリカのひとコマ漫画の定番だし、映画でも「ひきしお」や「流されて…」「キャスト・アウェイ」などあるけど、28年と2か月と19日というのは格段に長い。難破船からいろいろ持ち出せたのは良かったし、島に食料にできる動植物が生息していたのも恵まれていたと言えよう(銃の弾は一体何発あったのだろう)。ただ、途中で人間が登場するや否や争いや殺戮が勃発して、つくづく気持ちが塞ぐ。何百年経っても、人類のやっていることはおよそ変わりがないのか。
ラストは〽ルララ母国への風に乗る〜
児童文学の古典を正攻法で映画にしたブニュエル監督の映画作りの面白さ
ルイス・ブニュエル監督のメキシコ時代の作品で、制作は1952年だが日本公開は1964年だった。個人的には後期の「昼顔」「哀しみのトリスターナ」「自由の幻想」しか接する機会が無く、ブニュエル監督について改まって論じることは出来ないし、これまでに映画雑誌や専門書でもブニュエルについて得た知識もない。しかし、今回VODでこの映画のタイトルを発見した時は驚きと嬉しさで躊躇なく鑑賞していた。と言うのも、1964年のキネマ旬報のベストテン選出のコメントの中に、淀川長治さんの選外ではあるが、この年度で一番涙を流したとあり、30年以上待ち望んでいた作品だったからだ。1964年の洋画界は、外国映画輸入自由化によりアメリカ映画以外でも秀作が数多く公開され充実した年であった。東京オリンピックだけではない時代の大きな変化の中で様々な映画が観られる様になって、映画ファンにとっては記念すべき年だったと言っていい。ベストテンに選出された「かくも長き不在」「突然炎のごとく」「去年マリエンバートで」などの名作以外でも、「山猫」「シェルブールの雨傘」「博士の異常な愛情」「マイ・フェア・レディ」「野のユリ」「昨日・今日・明日」「大列車作戦」「ブーベの恋人」「007/危機一発」「マーニー」など目白押し。偶然にもブニュエル監督の代表作の一つに挙げられる「ビリディアナ」(残念ながら未見)と同じ日本公開になる。
感想は淀川さんのように感涙とはならなかった。でも、とても面白かった。原作ダニエル・デフォーが記録したサバイバルの面白さがまず挙げられるだろうが、同時にこの児童文学の古典を正攻法で取り組んだブニュエル監督の器用さに驚いた。1659年、嵐で奴隷船が漂流して独り無人島で生き続けるクルーソーの、その後28年にも及ぶ出来事が事細かく描かれている。衣食住に関わる全てをたった一人でやらなくてはならない、その困難さと行動力に見入ってしまった。犬のレックスとの友情は、彼の孤独を癒す唯一の心の支えだっただけに、寿命の短さがとても悲しい。また、大航海時代と植民地政策の背景がそのまま反映されている、現地の人たちを人食い人種として描く黒人差別的な描写が、今日の鑑賞では抵抗感がない訳ではない。黒人の囚人の一人を助け、召使として雇い、次第に信頼関係を築くエピソードに救われる。
主演のアイルランド出身のダニエル・オハーリーの孤独に対抗した姿が、時に常軌を逸したような異様さを見せるところが巧かった。プロデューサーは主役にオーソン・ウェルズを望んでいたが、声が大きくて太り過ぎだとブニュエル監督が拒否したとある。納得の裏話です。低予算の映画でも撮影の大変さも想像できて、ブニュエル監督の映画作りの面白さが詰まった大人でも楽しめる冒険映画になっている。
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