「『明後日(あさって)に向って撃て』?!」夕陽の群盗 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
『明後日(あさって)に向って撃て』?!
南北戦争を舞台にした西部劇で、アメリカン・ニュー・シネマの逸品。
作品冒頭、護送車を伴った軍隊と思しき集団が瀟洒な一軒家に立ち寄り、強引に少女を連行しようとする。だが、聞こえてくるのは若い男の怒号のみ。変だと思ったら、男が女装していて、押し込まれた護送車には、同じ風体の奴も。北軍兵士による徴兵逃れの摘発だった。
兄を戦争で亡くしている良家の子息ドリューは両親のはからいで摘発を逃れ、北部のオハイオからバージニアシティ(ネバダ州)を目指すが、途中立ち寄ったセイントジョセフで自分から金を奪ったジェイクが率いる少年ばかりの強盗団と合流。行動を共にする。
作品が製作された当時は1965年から続くベトナム戦争の終盤。南北戦争を舞台に、いきなり徴兵忌避の場面から始まるので反戦色の強い作品なのかと思ったら、以降は反戦を表す直接的な描写はなく、むしろヒッピー文化や反戦疲れを揶揄しているようにも見える。いずれにせよメッセージ性は少ない気がするが、古い秩序や価値観の網の目から洩れ落ちた当時の若者の表象と読み取るべきだろうか。
脚本も兼ねたR・ベントンは今回が監督デビュー作。のちに『クレイマー、クレイマー』(1979)でオスカーをW受賞(監督賞と脚色賞)する名監督だが、アメリカン・ニュー・シネマの嚆矢となった『俺たちに明日はない』(1967)の脚本でも有名。
しかし、本作が意識しているのが、同じくアメリカン・ニュー・シネマの名作『明日に向って撃て!』(1969)であることは一目瞭然。ラストシーンは同作へのオマージュなのか、それともパロディ?
ジェイクを演じたジェフ・ブリッジスは有名な俳優一家出身で代表作も多数。近年まで俳優としてのキャリアを重ね続けた彼とは対照的に、ドリュー役のバリー・ブラウンは本作の6年後に自殺。若い頃のダスティン・ホフマンやクリスチャン・ベールを思わせる風貌や、21歳にして本作で示した存在感を思うと、あまりにも惜しまれる早世。
NHK-BSにて視聴。