オープニング・ナイトのレビュー・感想・評価
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俳優たちのための映画
前回のカサヴェテス・レトロスペクティブで唯一未見だった作品。
カサヴェテス作品は概してつかみどころがない。出演者が延々としゃべっているのを見せられたり、いきなりシーンが変わって、今どこにいるか掴めなくなったり。カサヴェテス自身が語っているように、彼は映画技法には関心がなく、要は俳優たちの感情をカメラに写し取りたいのだろう。
老いに抗おうとする舞台女優を描いた本作は、カサヴェテスならではの俳優たちのための映画と言える。俳優だけでなく、演出家、作家、プロデューサーも出てくるバックステージ物としても楽しめるし、他のカサヴェテス作品に比べるとストーリーがはっきりしていて、観やすい仕上がりとなっている。
ジーナ・ローランズは熱演。亡霊に憑依されたかのようなシーンは、リアルに怖い。俳優としてのカサヴェテスは、出番は少ないものの、シニカルな持ち味で、ラストのアドリブ合戦を含めて印象を残す。
それにしても、70年代頃の映画を観ると思うのは、どこでもスパスパと煙草を吸っていたのだなということ。ちょっとオカルトチックなのも、その頃ならでは。そういえばカサヴェテスは「ローズマリーの赤ちゃん」に出てたね。
ジーナのやりすぎ感は否めない。
映画の時系列は舞台初日に向かって進んでいく中で、ジーナの熱烈な女性ファン(ナンシー)の交通事故死が変数として立ち塞がり、ナンシーが悪霊としてマートル(ジーナ)を悩ませる。同時にピークを過ぎた俳優の老いがフォーカスされる。
それにより思い通りにならない舞台監督、劇作家、プロデューサーの怒りと諦め、そしてマートルの素行の悪さや台本を無視したアドリブの演技に振り回される俳優陣、スタッフが登場する賑やかさは他に類を見ないか。サスペンス、そしてオカルトと当時の流行りが詰まった作品にも思える。
リアル
お酒の酔いと精神的な不安定さと
こわれゆく女優
あれ?コロンボ刑事?
中年の女優が老け役を受け入れることができず、若さへの未練を断ち切ることに四苦八苦しなけばならない様子を描く。劇中劇となる、劇場での芝居とジーナ・ローランズ演じる中年女優の葛藤が重なる。
これ、今年アカデミー賞獲った「バードマン」と同じような題材じゃないか。演劇の舞台裏、脚本家や演出家との相克。ほとんど同じことを取り扱っている。
無論、イニャリトゥとジョン・カサベテスの映画文法は大きく異なるから、パクリだとか二番煎じだとか言うつもりはない。ただ、老いや若手に一線を譲ることへのこだわりは常にドラマとなりうるものなのだということ。
女優の香川京子もさるトークショーで、初めて老け役が回ってきたときに落ち込まない女優はいないという話をしていたが、その言葉が脳裏に甦った。
カサベテスの作品を初めて観たが、小津なみの映画文法へのこだわりを見せている。多用されるクロースアップの多くは、接写するのではなく、望遠で迫っている感じが出ている。これが画面の動揺を生み出し、人物の不安定な心理を見事にあぶり出すのだ。
見事にニューヨークでの初日公演を終えたローランズに花束を捧げる男性がほんの一瞬だけ画面に映る。誰かに似ていると思ったら、刑事コロンボのピーター・フォークではないか!
立ち去ると見せかけて、「あ、そうそう、うちのかみさんがあなたの大ファンでして。・・・・・・」なんてセリフが飛び出しても不思議ではないラストであった。
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