桑港のレビュー・感想・評価
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サンフランシスコへのエール
冒頭のクレジットでサンフランシスコ大地震の数か月前と告げられるから災害映画と身構えた、クレジットではサンフランシスコを悪徳と退廃に満ちた犯罪都市と語るのでソドムの都のようなヤハウェの裁きを受ける成り行きかと想像したが下劣な描写はほとんどなく聖女を巡る恋の鞘当合戦が大半だった。
映画はマリー役のジャネット・マクドナルドのプロモーション映画のような展開、清純で美人のソプラノ歌手、ダイヤモンドの原石のような設定でショーパブから教会、オペラハウスと歌のシーンが盛りだくさん、地震の部分はほぼ終盤に唐突に訪れる。
1906年のこの地震は史実でマグニチュード7.8、悪名高いサンアンドレアス断層によるものでサンフランシスコの人口約40万人に対し22万人以上が家を失い死者も3千人を超えたと言う、火災は三日間燃え続け、水が出ないので軍により建物の破壊消防が行われたのも映画の通りだったようだ。地震のシーンは油圧による振動台の上にセットを組んだと言うから迫力満点、後に本作がきっかけになってアカデミー賞に視覚効果賞が設けられたそうだ。
粗野だが卑しくはないブラッキーが生き残り狡猾なブルジョア、バリーはあえなく圧死、バリーと一緒にいたはずのマリーは行方不明、傷を負いながらも必死で探すブラッキーの前に現れたのは無傷で着衣に乱れ一つないマリー、そして生き残った人々がハレルヤを歌いながら復興再建の誓いを高々に唱えるのでしたといったベタな展開。陰に日向にマリーを衛る牧師さんまで絡めてこうまでマリーを特別扱いするのは聖母信仰のメタファーなのかプロデューサーのお気に入りだったのか、本筋と関係ないところで引っかかりましたが、震災から30年経って復興を成し遂げたサンフランシスコへのエールのような映画、力作でした。
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