「父が不気味な他者と化す経験」エル・スール abokado0329さんの映画レビュー(感想・評価)
父が不気味な他者と化す経験
ビクトル・エリセ監督作品。
陰影の画がすごい。
親がふとした瞬間に理解不能な他者として立ち現れる経験は何となく分かる。
子どもの頃は、常にそばにいて親とは一心同体な関係である。
しかし親には当然、子どもの生まれる前の思い出/記憶があり、別個の人間である。それが本作では、少女エストレーリャの初聖体拝受式を契機に象徴的に描かれている。聖体拝受式とは、正式に自分の意志でカトリック教徒になる儀式だという。だからこの儀式を通してエストレーリャは自立した「大人」となるのである。「大人」になった彼女は、父であるアグスティンと対等にパソ・ドブレを踊る。しかし踊りの曲は、父が捨て去った故郷の曲“エン・エル・ムンド”である。それは「大人」になった代償に、自分では分有不可能な父の記憶、父の他者性が到来してしまうことを示している。
この父の他者性は、最後に父娘が会話を交わすホテルでの食事シーンで示唆的である。エストレーリャが授業のために去った後、引いた画でアグスティンを撮るショットは、彼が何を考えているのか分からない禍々しい存在であることを十全に描いている。
本作では、スペイン内戦という〈出来事〉とそれにより引き裂かれる人々の記憶/物語を映画に昇華している。
歴史に根差した作品をもっとみたい。
コメントする
humさんのコメント
2024年4月25日
こんにちは。
自分のしらない、その父を探しに成長した娘はでかける。
父は、娘がそうすることで自分を知ってもらうことを願い遺品を選んだ。
親子であっても、人間は個という他者のなかで生きていること、
それを娘に知って欲しかった父の思いを感じています。