「ジョン・フォード映画に現れた幼い闖入者」軍使 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
ジョン・フォード映画に現れた幼い闖入者
馬群、土煙、そして銃。織り成されるは男の男による男のための物語。即ちいつものジョン・フォード。しかしいつもと違うのは、奇妙な闖入者がいること。小役時代の高峰秀子がうんざりするほど引き合いに出されたという、テンプルちゃんことシャーリー・テンプルだ。
幼い少女ほどジョン・フォード作品と隔たりがある存在もない。実際、駆け回る兵士や彼女の背丈ほどもある銃は、彼女が異物であることを殊更に強調する。しかし異物であるがゆえに、彼女だけが戦争というリアリズムの窮状に横っちょから大穴を穿つ権利を有する。
祖父率いるイギリス軍の兵士たちに可愛がられている一方で、イギリス軍が捕虜にしていた反乱軍のリーダーとも友好を結んでいるテンプルは、決して相容れない両者が唯一共有する安全地帯だった。
彼女の幼稚ともいえる働きかけによって、結果的に両軍は和解を果たし、物語は大団円を迎える。子供を絆に対立関係が解消されるというのはいかに子供めいた予定調和だが、そう冷笑するのも憚られるほどに映像の力が漲っていた。
特に、反乱軍の本拠地に乗り込んだテンプルと、彼女を歓待しつつも捕虜化しようと画策する反乱軍、そして彼女を取り返しにやってきたイギリス軍が三つ巴となって緊張関係を演じるラストシーンは息を呑む。
和解か戦争か、一瞬の予断をも許さぬ状況下ではショットの切り替わり一つでさえ大きな意味を持つ。ジョン・フォードの滑らかなカット割りはこういった局面においては恐怖を倍加するものとして表出する。
テンプルがいわゆる「オトコ女」のようなガサツ野郎ではなく、あくまで徹底的に幼いがゆえの放縦さを振り回す子供として描かれていたのもよかった。祖父に面と向かって「戦争なんかやめてよ」と言える一方で、戦争への準備を進める兵士たちの間で不安げな表情を浮かべる彼女のありようこそが本作を傑作たらしめている要因の一つであることに疑念の余地はない。