「ゾンビ映画の原典」恐怖城 かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
ゾンビ映画の原典
ゾンビ映画の原点にして原書。
【ストーリー】
ハイチに新婚旅行中のニールとマデリーンは、馬車で移動中に奇妙な光景にでくわす。
二人を見つめる不気味な男と、生気のない肌色の男たち。
御者があわててその場をはなれる。
「あの男たちはゾンビだ。声をかけたあの男は、ブードゥーの秘術で、死んだ男たちをよみがえらせて労務させているのだ」
ゾンビという聞きなれぬ言葉と、化外の地の得体の知れなさにゾッとしつつも、二人はハネムーンの日々を楽しくすごす。
だが、彼らをこの地に呼び寄せた農場主のボーマンが、美しいマデリーンをわがものにしようと、あのゾンビ使いからもらい受けた"ゾンビパウダー"を彼女に飲ませる。
マデリーンははかなくその命を散らせてしまった。
悲しみに沈むニールは酒に逃げるが、親しくなっていたブルーナー博士が、マデリーンは死んでいないとニールに伝える。
原題は『ホワイトゾンビ』。
前年に公開された『魔人ドラキュラ』、『フランケンシュタイン』といった怪奇映画のヒットを受けて、新たな怪物としてブードゥー教のよみがえる死者の伝承から引っぱってきたのが、このゾンビ。
冒頭、死者のよみがえり儀式こそおどろおどろしさがありますが、昔の映画なので、全体まったりとした空気です。
演出も、ふりむいたら怖い顔がドギャー! ワー!
みたいなカメラワークを駆使した驚かせ方とかはなく、前年に当たり役としてドラキュラを演じたベラ・ルゴシの濃い顔とドアップの目ヂカラとか、魂を吸いとられたっぽいヒロインの、まばたきしないで脱力した表情でピアノ弾きつづける三白眼とかの、なんか顔芸中心なイキフン。
それでも、ドラマのシーンはけっこう見せるアイデアもあって、奥さん死んじゃったとカンちがいした夫が、酒びたりで酒場にいると、壁にダンスしてる女性の影が落ちて、それに抱きつこうとしたりする演出は、なんとなーくエヴァのテレビ版最終回二話を思いだしました。
実写映像の手前に絵を描いて背景を足したりするマットペインティング的な、ゾンビ城の遠景なんかもあって、スケール感も味わえます。
ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が出てくるまで、ゾンビたちが人気にならなかったのは、その存在に怖さをおぼえなかったからでしょう。
あのですね、この映画のゾンビ、腐ってないんですよ。
ただうーあーうなってジワジワ動くだけの、生の青白いオッサンなんです。
ルゴシが目ヂカラをガーン!
生前の服着た生白オッサンたちが、うーあーうーあー画面に入ってくる。
テキトーなピアノの不協和音がゴイーン!
なぜかスローな敵にとり囲まれ、追いつめられた人物たちが、捕まったりガケから落ちたりする。
そしたら服着たマネキンが海にドボーン!
……恐怖映画にしては、ゆるーい空気なんです。
登場人物も少ないし、画面お安いなーと思ったら製作費がなんと5万ドル。えやっす。当時のレートとか知らないけどやっす。
比較対象が必要じゃね?
とウィキペディア先生におたずねしたところ、
『魔人ドラキュラ』が35万5千ドル。
『フランケンシュタイン』が26万2千飛んで7ドル。最後の7ドルなに? なぜはしょらないの?
あちこちに仕掛けられたツッコミどころで足の踏み場もないんですけど、とりあえずこの『恐怖城』が低予算映画ってのはわかりますね。
そら画面もお安くなりますわ。
ちな『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の製作費11万4千ドル。やっす。
すっかり西洋のブキミ宗教のテンプレとなったブードゥー教ですが、どうもジャーナリストを名乗るウィリアム・シーブルックって人が、過度にエキゾチックに紹介しちゃったせいなんだそうで。
日本でもさんざん邪教ネタのターゲットにされましたけど、元は地元の習俗とキリスト教がミックスされたものなんだそうで、そのへんがアメリカ人にウケるポイントだったのかもしれませんね。
うそ・大げさ・紛らわしいなんてのは当たり前、それでアメリカも儲けたし、ファクトチェックなんてしない時代だし。
ウィキのシーブルックのページ読むと、当人の人生も浮き沈みあって、けっこう楽しめます。
67分の短いフィルムなので、資格勉強のかたわらなんかに、流し見するのもいいかもですよ。
コメントありがとうございます!
やたら豪華な舞台セット、クラシック音楽などそれっぽい雰囲気ありますよね。
解体寸前だった「魔人ドラキュラ」のセットを使えたのはルゴシのコネだったのかなぁ。さらにメイクは「フランケンシュタイン」でボリス・カーロフを怪物に仕上げたジャック・ピアースと、なかなか興味深い作品です。製作費、やっす!www