劇場公開日 2013年9月20日

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「本当にこういう作品を作りたかったのか」エリジウム 13番目の猿さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0本当にこういう作品を作りたかったのか

2013年12月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

単純

『ブレードランナー』の様々な国の文化が入り交じった裏通りのスラム街、『マイノリティ・リポート』のテクノロジーを駆使し整理された都市部など、優れた監督たちは遙か未来であっても、やがて私たちの世界がそうなるのではないかという説得力を持った未来を描いてきた。そして今回、この『エリジウム』のニール・ブロムカンプも優れた未来世界を私たちの眼前に作り出すことに成功している。
 本作で登場する、かつては整然としていたはずの都市は、長年の(それも百年単位の)汚れと人口増加のためにかえって雑然となり、サンフランシスコだというのにそこに住まう人々の生活はまるで途上国のそれである。我々がある程度見知っている都市が荒廃し、しかしそこに当然と不法な暮らしを送っている様のリアリティは、百年後の世界を正確に予言しているのではないかと薄ら寒さすら覚えてしまう。優れた未来像を描いているという意味ではこの『エリジウム』も『ブレードランナー』などと並んで記憶されそうなものだが、いかんせんブロムカンプは前作『第9地区』が傑作すぎた。母国のアパルトヘイトを風刺したSFは批評家がこぞって評価するほどの出来だった上、前作は監督が敢えて「ハリウッド的な展開は避けたかった」とこだわり、宇宙人と地球人とのありがちな友情などは描かなかったにも関わらず、今回はあからさまなハリウッド的展開を持ち込んでしまってるが故にどうにもパンチが効いていない。前作同様、人が破裂し主人公が不衛生な状況で手術をするという「痛い・汚い」SFという自身の持ち味を活かしておきながら、他方で何故まるごと前作を否定するようなことをやってのけたのか、エンターテーメント性を考えたのだとしてもあまりにも中途半端ではないだろうか。
 ブロムカンプはまだ34歳、丸くなるにはまだまだ早すぎる、尖った作品をもっと世に出してほしいと一映画ファンとしては願わずにいられない。

13番目の猿