ゴッド・ブレス・アメリカ : 映画評論・批評
2012年7月31日更新
2012年7月28日よりシネマライズほかにてロードショー
この映画のブラック・ジョークな殺戮はアメリカではいつでもリアルに転化しうる
ショッキング・ロックの帝王というか、聴かせる、見せる劇場型ロックの創始者=アリス・クーパー人気がここにきて再々燃。わが国でも紙ジャケで、パンティ付デビュー作まで完全復刻でリリースされたばかりである。映画もティム・バートン監督作「ダーク・シャドウ」に<アリス・クーパー>本人として出演、クロエ・モレッツとステージに!
リアリティ番組の人気娘、ヒステリックなセレブ嬢<クロエ>をヒット(暗殺)というところから、リストラされ脳疾患が見つかり自殺まで思い詰めたどん底中年男フランク(ビル・マーレイの弟、ジョエルが好演)の世の不作法者退治の殺戮人生が始まるが、<クロエ>という名前の選択は「キック・アス」に喧嘩を売ったとしか思えない(笑)。この<クロエ>射殺を目撃した女子高校生ロキシー(ダラ・ライン・バー)がフランクに共感し同行する。ロキシーがモーテルでフランク相手に語りに語るのがアリス・クーパー賛歌なのである。アリスがいなかったらトレント・レズナーもマリリン・マンソンも存在しえなかった云々、熱い、熱い。クーパーの歌「ハロー・フレイ」(アルバム「ビリオン・ダラー・ベイビーズ」収録)に乗って、二人がケネディ大統領夫妻に扮し、暗殺時の模擬パレードをおこなう夢場面はアメリカの悪夢の記憶そのもの。フランクは世の中のくだらなさをまさにTVメディアに見いだすわけでクライマックスの殺戮シーンはまさに公開録画のスタジオで起こる。この映画のブラック・ジョークな殺戮はアメリカではいつでもリアルに転化しうる。なぜなら……そこに銃があるからだ。
(滝本誠)