スリープレス・ナイト(2011) : インタビュー
F・ジャルダン&T・シスレー、仏ノワールで描きたかった親子のきずな
フレンチノワール「スリープレス・ナイト」は、第36回トロント国際映画祭で上映され、米ワーナー・ブラザースがリメイク権を獲得するなど、各国で注目を集めている。メガホンをとったフレデリック・ジャルダン監督は、第4作となる今作で“きずな”を主軸に、マフィアの抗争、警察の腐敗などさまざまな要素を描いた。孤独な戦いを強いられる主人公の刑事バンサンを演じたのは、「ラルゴ・ウィンチ 裏切りと陰謀」で知られる、仏俳優のトメル・シスレーだ。激しいアクションシーンにも挑戦し、緊迫した表情をのぞかせている。フランス映画祭で来日したジャルダン監督とシスレーが、初タッグを組んだ今作について語った。(取材・文・写真/編集部)
「Cravate club」(2002)以来、約9年ぶりにメガホンをとったジャルダン監督。この間、ふたつの企画を練っていたそうだが、どちらも実現には至らなかった。かねて、フィルムノワールを製作したいという思いを抱いていたジャルダン監督は、共同脚本家のニコラス・サーダ、プロデューサーのマルコ・チェルキーとともに、今作の製作に踏み切った。
念願のフィルムノワールに挑んだジャルダン監督は、「ノワール作品はすべてを語りながら、娯楽的要素を一緒に盛り込むことができる」とその魅力を語る。「父と息子の関係性を描きたい」という思いから出発した今作をつくり上げる上でも、「親子の関係を描くには、コメディや心理ドラマなどいろいろなタイプの物語が可能だと思います。でも私は、フィルムノワールが要求するテンポの速さや、緊張感があるなかで描きたかった」と強いこだわりを明かす。
「ラルゴ・ウィンチ 裏切りと陰謀」で若き大富豪を演じたシスレーは、息子との関係に問題を抱えた父親を熱演。苛烈な激闘のなか、愛する者への思いを問われるバンサンという役どころを振り返り、「バンサンはこれまでの人生で下してきた選択に対して、ツケを払っているんだと思う。どんなに高いものだとしても、払わなければいけないときに直面している」と分析。監督がつくりあげた世界のなかで、泥臭さを持った人間味あふれるキャラクターとして体現しているが、「どんなジャンルの映画であっても、演じる自分としては何も変わることはありません。その映画がどんなジャンルであるかは、色彩、光、リズムといった監督の考えが託されたシナリオによって決まります。役者である自分には、与えられた状況をいかに想像して、そのなかで演じきるかということが重要なのです」と信念を語った。
冒頭から、主人公バンサンと息子トマの間には深い溝が出来上がっていた。ふたりの間にできてしまった隔たりが埋まっていくさまを浮き彫りにするため、ジャルダン監督は幾人もの思惑が交錯する「カオティックな世界」を構築する。舞台として人がひしめき合う大型のナイトクラブを用意することで、バンサンが置かれた切迫した状況を、観客に追体験させることに成功した。「バンサンと捕えられた息子を地獄に落とす場所がこのナイトクラブであって、地獄からどうやって生き残り、はい上がる過程でふたりの関係性が見えてくるんです。バンサン親子がマフィアやディーラー、逃亡を妨害する群衆といった障害物をいかに乗り越えていくかを見せることが、この映画では重要だったんです。これによって、ふたりの関係性を凝縮して見せることができ、この作品の娯楽性や乗り越えたときの喜びを、観客と分かち合うことができると思ったのです」
バンサン、ふたりのマフィアのボス、警察という四つ巴構造に加え、物語はナイトクラブという狭い空間で繰り広げられる。「型にはまったジャンル映画の外に出て、今まで見たことがない新しいジャンルを開拓したかった」というジャルダン監督は、大掛かりな仕かけを意図的に排除した。「決まった約束事を取り払って、ストーリーのほとんどが囲まれた空間のなかで完結する、閉所にこだわりました。フランス映画のサスペンス作品は、古典的手法を用いたものが多いですが、そうではない作品をつくりたかった。バンサンが絶対絶命の危機に陥っている一方で、周りの人はどんちゃん騒ぎをしている。ナイトクラブという環境は、いろいろな人が入り混じっている小さい世界であり、自分たちが生きている社会の投影でもあると思うんです」と持論を展開した。
ナイトクラブに場面が限定されることで、シスレーはより緊迫した演技を要求されることになる。声や視線といった自分が持つもので、物語を展開させなければいけないからだ。そのため、「この映画で求められたのは、バンサンが置かれた状況をいかに信じるかということなんです。捕らわれてしまった息子を助けなければいけないという状況を、信じ込むことができるか。そのモチベーションを撮影の間、維持するということできるか。心理的に追い込まれているバンサンを、自分のなかに抱え込むことが何よりも大変でした」と役どころと同化していった。
ジャルダン監督が、今作で描きたかったことは“きずな”だ。物語とともに崩れゆくマフィアや警察という組織の信頼関係と、次第に深まってゆく父と息子のきずなを対比させた。最後に、今作が「ドラマツルギー的側面を持つ」と切り出したジャルダン監督は、「バンサンは映画の冒頭からケガをしている。出血がひどくなり、疲労感や焦燥感が増し弱っていくバンサンの姿を見せる一方、死に怯える子どもを映し出すことで、父親が息子と自分の死を意識することによって、もともと希薄だったふたりの関係が次第に深まっていくところを見せていくことが目的でした。どんなに希薄に見えたとしても、血のつながりはものすごく強いきずな、愛情であり、自分たちが意識しなくても強固であるということを示したかったのです」と力強く語った。