俺俺 : インタビュー
パブリックイメージと“俺”の狭間で切り開いた俳優・亀梨和也の第2章
心地よい違和感というべきか。アイドルグループ「KAT-TUN」の亀梨和也が、奇才・三木聡監督の最新作「俺俺」に主演するという一報に、驚きを隠せなかった映画ファンも多かったはず。本人に対し、そう率直に切り出すと「狙い通りです」と不敵な笑みが返ってきた。映画出演は「ごくせん THE MOVIE」(2009)、「映画 妖怪人間ベム」(12)に続き3本目で、単独主演は初めて。「テレビドラマから映画、という流れがあった過去の2本と違うだけに、新人として心して現場に入りました。何より自分のパブリックイメージと真逆な三木監督と組めるっていうのが、ラッキーだし大きかった。めぐり合わせやタイミングもあるんですけど、違和感を覚えてもらうっていう結果は……、うん、やっぱり狙い通りですね」。パブリックイメージと“俺”の狭間で、俳優としての第2章を切り開いた亀梨。そのまなざしの先にあるものとは?(取材・文/内田涼)
映画は、大江健三郎賞を受賞した星野智幸氏の同名小説を原作に、なりゆきでオレオレ詐欺を働いた主人公・永野均の前に、見ず知らず(しかし顔や思考は自分そのもの)の“俺”が増殖し、やがて俺同士が存在をかけて削除合戦を始めるというシュールな異色サスペンス。亀梨は均をはじめ、「ミリタリーマニアの俺」「巨乳の俺」「全身タトゥーの俺」など計33のキャラクターを演じ分けた。この難解なチャレンジに話題が及ぶと、先ほどの不敵な笑みから表情は一転。「意味わかんなかったです(笑)。俺が増えていくって、どういうこと? というか、俺がそれを全部演じるんですかって。これは大変なことになるなと思いました」と苦笑しきりだ。
ファン待望の単独主演作であり、念願だった三木監督とのタッグが実現しただけに、気合いは並々ならぬものがあった。「三木監督から来たボールは、絶対に見逃さず、全部打ち返してやろうという思い。監督が思い描くプランニングを、実際の映像にする“脳内プレイヤー”になりたいと必死でした」。物語を動かすのは、主人公の均に加えて、冷静な会社員の大樹、チャラい大学生のナオという、亀梨演じる3人の主要人物で「3人が同じシーンでやりとりすることも多いので、間合いやタイミングなど綿密にけいこを重ねましたね。撮影も特殊だし、現場に入ったら最後、もうゴタゴタ言っていられない(笑)。演じる上で意識したのはリズムと瞬発力、そして鮮度。三木監督にもその点は、よく注意されました」と振り返る。
一方、残る30のキャラクターは「ふつうの人がいないんだもん(笑)。それに主人公である“俺”の劣化コピーという意味合いもあるから、性格や内面よりも形から入って、なりきるしかなかった」といい、次々と衣装やメイクを変えることで、華麗なる30変化(へんげ)を披露した。「自分自身も行く場所、着る服で気分がコロコロ変わる性格。衣装を変える数分間で、役柄のスイッチが入った」。そういう性格だから、と謙そんするが、アイドル、キャスター、俳優とマルチに活躍する亀梨だからこそ成せるワザであるのは言うまでもない。
演じた33のキャラクターのうち、特に気に入っているのは「オタクの俺」と「ミリタリーマニアの俺」だという。どちらもファンや世間が抱く亀梨のイメージとは大きくかけ離れたタイプ。「どちらの役も振り切れたし、演じてスッキリしましたね。同時にKAT-TUN亀梨としては、あまり表に出したくない部分でもあるので、客観視すると『俺、何やっているんだろう』って違和感もありますけど(笑)。ただ、こういう“俺”を見てほしいというタイミングだったのは確か。その狙いは、三木監督の作品だからこそ成立するんです」。
映画にはミステリアスなヒロイン役の内田有紀、均の上司を演じる加瀬亮に加え、ふせえり、岩松了、松重豊、松尾スズキら三木組の常連俳優も顔をそろえた。「加瀬さんは以前から共演したいと思っていたし、自分があこがれる『役者としてこうありたい』という理想のイメージですね。王道の演技はもちろん、ちゃんと外せるところは外せるし、格好いい役、ダメ男みたいな役、それにワケわかんない役もできる。今回、共演させていただき、役者さんの姿勢というものを学ばせてもらいましたね」と素直なせん望を隠さない。
そもそも、「俺俺」に主演するというチャレンジは、「タレントとして長いスパンで考えたとき、ベムでひとつの大きな区切りをつけることができた。今回は『さあ、第2段階をどう進むべきか』と考えた時にチョイスさせてもらった、新しいスタート」だと断言する。アイドルの“俳優宣言”とも受け取れるが、亀梨の姿勢はよりフレキシブルだ。「役者として振り切りたいけど、それだけでいいのかという思いもある。アイドルとしてのパブリックイメージがあり、その上で可能になる仕事や発想もあるから」。
だからこそ、映画というフィールドにはこれまで以上に可能性を感じているという。「例えば『俺俺』という作品が、テレビドラマだったら引き受けられなかったと思います。ドラマって、求められるものを気軽にわかりやすく楽しんでもらう場所だから。今回の経験で、映画って自分が示したい“幅”を示せる機会であり、亀梨和也っていう存在をズラしやすい空間だなって」。冷静な自己分析と、あふれる表現者としての欲求。その臨界点となった「俺俺」を通して、「もう、どんな“俺”でも戦える。ある意味怖いものないなって思っています」と力強く語る亀梨の活躍を、映画ファンは無視できないはずだ。