劇場公開日 2012年6月23日

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プレイヤー : インタビュー

2012年6月21日更新
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フランスのオスカー俳優J・デュジャルダン 新作は浮気男に挑戦

アーティスト」でフランス人として史上初のアカデミー賞男優賞に輝いたジャン・デュジャルダン。その新作が、自ら企画、プロデユース、共同監督兼脚本、そして主演も務めたオムニバス映画「プレイヤー」だ。「アーティスト」のミシェル・アザナビシウス他7人の監督が、タブーとも言える男の浮気をテーマにさまざまな問題を抱えるカップル像を、コメディからシリアスなドラマまで、それぞれの手法で描き出す。オスカー俳優の新作としてはかなり大胆な挑戦、であると同時に、いかにも「フレンチ・ラバー」のイメージを増幅させる浮気男たちの姿を演じきった彼に、その真意を語ってもらった。(取材・文/佐藤久理子)

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——とても挑発的なテーマの作品ですが、どうして浮気について描こうと思ったのですか。

「ずいぶん前に浮気をしている男の話を聞いたことがあってね。彼は妻に浮気を隠すために、いつも映画を見に行っているフリをしていたそうだ。携帯に電話がかかって来ても、映画館だから取ることができなかったと言えるから。彼の巧妙なだまし方があまりに下劣なもので、逆に滑稽でもあった。その話が印象に残っていて、浮気をテーマにしたら面白いだろうと思ったんだ。とはいえ滑稽なだけじゃなく、観客が共感できるようなリアルなものにしたかった」

——オムニバスという形にしたのは、さまざまなカップル像を描きたかったからでしょうか。

「それもあるし、ずいぶん前からディノ・リッシの『I mostri』(63年)のような、ユーモラスなオムニバス映画が作りたいと思っていたんだ。それにこういう形式ならさまざまな監督と仕事ができるし、異なる役柄を演じられる。ミシェル(・アザナビシウス)やジル(・ルルーシュ)のように、親しい友人たちと集まって何かやりたいという気持ちもあったよ」

——「アーティスト」で数々の賞をもらった後に、こういう作品で浮気男を演じるというのは、勇気のいることではありませんでしたか。

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「たしかに僕が演じた役は、大いなる馬鹿野郎だからね(笑)。でも俳優としては、ときどきああいう馬鹿男を思い切り演じて発散したくなる衝動に駆られるんだ。それにこの作品は、浮気というタブーを扱いながらカップルの真剣な関係を描いている。浮気を通して愛の重要さとか本質的なものを見つめ直す、多くの人に興味を持ってもらえる作品だと思う」

——あなたはいまや海外で、魅力的なフランス男の代表と目されていますが、もし挙げるとしたら、あなたが考えるフランス男の魅力とは何だと思いますか。

「難しい質問だな(笑)。海外の人にとってはフランス語の響きとか、フランス的な流儀とかが魅力的に映るのかもしれない。ただそうは言っても僕らにとってそれは当たり前のことだから、よくわからない(笑)」

——たとえばアカデミー賞のプロモーションの一貫でアメリカに行っているあいだ、向こうでのフランス人に対するイメージについて何か感じたことはありますか。

「決まりきったイメージというよりはむしろ真実に近いと思うけれど、快楽主義でタバコや酒が好きで、グルメで女性を誘惑するのが得意で、そしてたぶんちょっと傲慢、というものかな(笑)。フランス映画に対する概念は、いまだにヌーべルバーグで止まっている感じだ」

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——あなたはワンマンショーとテレビのコメディからキャリアをスタートしましたが、フランスの映画界ではいまだにテレビ界出身のコメディアンという偏見を持たれていると思いますか。

「最近まではね。でも去年のカンヌ映画祭で男優賞を取ってからオスカーに至るまでの過程で、そういうイメージは薄れてきたと思う。でも僕自身はかつてのイメージを否定しないよ。それどころかテレビで学んだことは多いし、テレビでやってきたことを誇りに思っている。フランスの業界で嫌いな点を挙げるなら、スノビズムだ。こういうことはしない方がいいとか、言わない方がいいとか、みんなが格好をつけて滑稽になるのを恐れている。それにはうんざりさせられるね。僕はそういう考え方をぶち壊したいんだ(笑)」

——フランスにありがちな、作家主義映画と大衆映画という分けた考え方もスノビズムですよね。

「その通りだね。僕はニコール・ガルシアの『A View of Love』やベルトラン・ブリエの『The Clink of Ice』のようなシリアスな映画もやれば、大衆的な作品もコメディもやる。いずれも俳優の仕事に変わりはない。でもフランスには排他的な考え方があって、たとえばちゃんとした俳優になるには舞台をやらなければいけないと言われたりもする。でも僕はそんなことはないと思う。こういうやり方でなければいけないというのはないんだ。僕らの仕事は人間的なもので、感覚、感受性、感動といったものを扱っている。だから人それぞれのやり方があっていいはずだよ」

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