思秋期のレビュー・感想・評価
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人生の折り返し地点を迎えた男女の破滅と希望を描き、サンダンス映画祭...
人生の折り返し地点を迎えた男女の破滅と希望を描き、サンダンス映画祭や英国アカデミー賞で高い評価を受けた人間ドラマ。
救い
ジョセフやハンナの夫、犬の飼い主の様に、衝動的に暴力を振るったり暴言を吐いたりするのは、私の周りでも何故か男性、特に中年以降の男性に多い気がします。男性は強くなくてはいけない、女は躾なくてはいけないという間違えた脅迫観念があるのでしょうか。それともただ単に弱い者相手に憂さ晴らしをしているのでしょうか。しかし、弱い者相手に暴力をふるっても結果的には復讐されることがあるのです。この暴力に対する態度が綺麗事として描かれていなかった事が良かったし、監督の強い意志を感じました。
周囲の誰もがハンナの事を気にかけませんでした。神すらもハンナの事を救えませんでした。会ったばかりのジョセフに救いを求める程ハンナは孤独でした。ラストでジョセフが初めからハンナを気にかけていた事を語るシーンがありますが、最終的にあれでハンナは救われたのだと思います。
大人の鑑賞に耐えられる…という表現にぴったりの映画
こんな映画、日本で作れるもんやったら作ってみい!絶対無理! …と思った。悔しいけど。 どもこまでも自然。本当にそこで起こっているかのように、人生のある瞬間をみているような気がずっとしている。 さびしい魂達が寄り添うように求めるようにそこに在る。 大人の真実がそこに在る。 もう子供や若い奴等が好んで観るような映画は観るのをやめようと思った。
再生の時
自分では多分選ばない映画ですが、息子の薦めで観ましたが、衝撃でした。
人はなにに救いを求めるかー男は酒と暴力におぼれ、自暴自棄な生活。
女は神にすがりながら、やまぬ夫の暴力に耐えている。
これが彼らの望んだ人生だとは思っていないのは明らか、どこかでこの生活から脱却したいとの
思いがこの出会いなのですよね。これを求めれば与えられるのでしょうか?
与えられても活かせないこともあるし、気づかず通り過ぎてしまう事もあるし、
また、反対にずるずると闇に引きずられてしまう場合もある。
出会いは一時の癒しと考え、また苦悩する日々に戻る、そんな人生もある。
少しの光でも長く自分の中に留めておけば、良き人生をおくれるのかなー?
ジュラシック・パークのティラノサウルスの話。
これをあだ名にするのはちょっと酷だけど、へーと思った。ジョセフの妻も衝動ありですよね。
ハンナの働いている所に彼女の夫が来て、ジョセフとの中を邪推したでしょ。
この後起こる事を彼女は解っていて涙を流す、どんなに寛容になっても救いを求めても報われないと
感じていたのでしょうかね。ハンナは「なに見ているのよ」と壁に掛けてあったキリストの
肖像画に物を投げた。もうこの時で、信仰は終わったのではないかしら。
だからジョセフの親友の葬式の後、目の周りのスゴイあざを気にすることなく、また秘密を抱えたままなのに
あんなに楽しそうにできたのかなーと思う。ここ周りの人びとの優しさ伝わってくる場面ね。
もう縛られない虚偽の生活から抜け出た嬉しさかなーと。罪よりも強い思い感じます。
そして告白―夫の屈辱的な扱いを、憎しみ、怒り、悲痛な叫びをジョセフにぶつけたでしょ。
この時まで彼女は誰にも話せず、孤独だった。
夫を罵倒した時とここ私もスッキリしたのはいけない事かも知れないけどね。
残酷な場面があるけれど、どこかホッとする様な所あり、また滑稽な所もある。
ちょっとにんまりしたのは自分の可愛がっていた犬がジョセフに殺されるでしょ。
あのアホ男怒って上半身裸になり悪態つき高い所に登って「かかってこい!」みたいな事言うけれど、
一向にジョセフの家には入っていかない。ジョセフは悠然と例のイスに座っている。
ここ、なんか可笑しい。
エンドにジョセフの語り、深くていい声でした。ハンナへの手紙はたくさんの意味教えてくれます。
ジョセフは偶然あの店に行ったのではなかったということも。印象に残った言葉は
「サムと君だけが笑顔をくれた。神を求めにいったんじゃない。君の笑顔で照らしてほしかった。
美しい君をただ見ていたかった。その人を知ろうとすると蔭も見えてくる。完璧な人間などいないのだから」
刑務所の場面でのハンナのあの穏やかな表情に、これからの人生を窺い知る事が出来る。
それと罪人は黄色いチョッキの様なもの着でいるので、面会者との区別がつきました。
1本の映画をこんなに掘り下げて観たのは初めてかなー。素晴らしい映画でした。
参考文を読み、DVD2回、3回と観ていく内に間違った解釈をしていた自分と向き合い、
私なりの新しい発見があり、エッ、この歳で成長?マスマス映画好きになりました。さて、これが実生活で役に立っているかは定かではないけれど・・・。
戦慄の 98分!!!!
何と powerful な映画であろうか!!!!
戦慄の98分!!!!
これだから映画は止められない!!!! 観賞からもう3日が過ぎ去ったと云うのに未だ思い返して身震いする自分がいる……!!
こんなにも じっくりと人の苦悩に まみれた表情を観続けた事が、かつて あっただろうか。
“傷付ける男と癒す女”と云う構図──。
怒りを抑えられない中年男と人知れず耐える女。どちらも、救済の術を教わった事が無い。傍にあるのは諦めと後悔を消費し続ける日常と酒。若さも希望も疾うの昔に置いてきた筈だのに、鬱陶しい程に逞しい。そんな姿に思わず ぐっと来る。見てられない様な有り体から目が離せなくなる。深く深く深く感情が入り込んで行く。そして突然、足元を掬われる。そうなると たちまち逃げ場は無くなる。身震いの日々が続く事となる。。。
怒男 Peter Mullan 恐るべし!!!!
癒女 Olivia Colman 恐るべし!!!!
そして脚本・監督 Paddy Concidine 恐るべし!!!!!!
遣る瀬無さだけでは語れない。
これは怪物だ……!!!!!!
仄暗い袋小路のどん詰まり
社会の仄暗い袋小路に吹き溜まった魂の、痛みも安らぎも冷静で慈愛に満ちた眼差しで見つめています。
苦さもあるけどほんのり温かい余韻がいい、音楽もいい。出会えて良かったです。
俳優としても活躍するパディ・コンシダインの長編初監督作品です。
抑えがたい怒りを抱えもがく男ジョセフと、彼に手を差しのべてくれた女性ハンナの話。
怒りと暴力と死で始まる冒頭は衝撃的でした。
ピーター・ミュラン、エディ・マーサンの名演もさることながら、コメディエンヌで知られるオリビア・コールマンが素晴らしく、見入ってしまいました。
ザンバラ髪が印象的な飲み友達役のネッド・デネヒーも良かったです。陽気な笑顔が、袋小路のどん詰まりからわずかに見える青空みたいでした。
哀しみの日々が続いても、人は必ず、いつか人によって救われる
この映画、おそらく主人公のジョセフにとっては、唯一の親友であるだろう飼い犬を怒りの余り蹴り飛ばし、内臓破裂させ殺してしまう衝撃のファーストシーンに始まり、前篇から異常に重~い物語の展開にも、関わらずどどっとこの物語に完全に引き込まれて観入ってしまった。
失業と最愛の妻を5年前に失ったジョセフ、その妻に優しく成れずに、決して良い夫ではなかった自分をジョセフは許せず、後悔の念に苦しみ酒浸りの日々を送り続けている。
そんな自分の生き方を許せないが、それでいてその生活を改め、出直す程の勇気も、気力も失せて、自分自身をコントロールする自制心も持てずに、日々怒りの中へ埋没する
ジョセフの姿を観るのは辛いのだが、そのやるせない、怒りの矛先を何処へもやり場を失った人間のその内面に抱え込んでいる心の痛みが、嫌という程に我が胸に突き刺さって来る。しかし、こうした心の負の部分を描いている作品を観ていると、観客であるこちらも、どっと心の闇の底無し沼に填まり込む。そして表面的には何の怒りも無いかのように描き出すハリウッド映画までもが、恨めしく
腹が立つ。
民族紛争や失業と言う様々な困難を抱える英国の実状を浮き彫りにするイギリス映画は重いのだが、非常にナチュラルな人間感情を描いているので、私などはドップリ感情移入する。只お前も暗い奴だと言われればそれまでなのだが、何も好き好んで、自腹で気分の滅入る映画を観る事もなかろうにと思うのだが、やはりこう言う映画も好きなのだ。きっとこの映画には太宰治も真っ青だ。
蓄積した煮えたぎる怒りを何処へも、処理出来ないままに生きなければならない事こそ、正に生き地獄で有る。
この作品を観ていると、人間が本当に内面に秘めたる怒りの行き着く先は、何処にあるのだろうか??!!
人に話し、理解してもらい、許して貰える事が可能で有るのなら、ジョセフの様に此処まで苦しむ事はないだろう。
そして、またハンナの夫のDVの凄まじさ、これも観るに耐えられなくなる。
ジョセフとハンナの間に生れる新たな人間関係修復への希求の想いも納得だ。
そしてハンナはついに夫に対するその怒りをぶちまけてしまう日が終盤巡ってくるのだ。
絶対に人を傷つける事は、人としてしてはならない事だが、自分がもしハンナの立場であるのなら、ハンナと同一行動を決してする事など無いとは、断言は出来ない!
自分の人生の中で希望を失い、後悔と罪悪感に打ちのめされ、生きている事の何にも幸せを見出せずに生きる人間の悲哀が胸を打つのだが、人は人に因って傷つくが、また同時に人に因って救われる。罪を償い再生の道を歩み出すハンナ、そしてその彼女を見守る事で救われて行くジョセフ、心に最後にはほっとささやかな光明が灯るこのラストは絶品だ!
年を重ねたらまた観たい作品。
予告を観て自分好みの作品だと思っていたけど、やっぱり良かった。
人生に迷った大人達の愛情と葛藤を泥臭く描いていた。
考えれば考える程、心に響いてくる。だけど、この気持ちを上手く表現出来ない。
主役の2人の演技は勿論良かったけど、ハンナの夫役の演技は素晴らしかった。
この作品は人生経験で見方が変わりそう。
年を重ねたらまた観たい。
苦しみを乗り越えて
「イン・アメリカ」の冴えない父親役だったパディ・コンシダインの初監督作。それも非常に優れた初監督作だ。もしかすると本年度ナンバー・ワンかもしれない。
ジョセフは画面に映った時から苛ついている。彼の内部で煮えくりかえった何かがたぎっているのが、手に取るように分かる。その彼が愛犬のあばらを蹴って殺してしまう、というシーンから映画は始まる。何とも陰鬱な始まり方だ。
ミュランはジョセフの複雑な心情を、しかめっ面を少しずつ変化させて巧みに演じた。どのシーンでもほとんど怒っているが、その後彼が見せる哀しみには心を突き動かされる。そしてその彼の再生を願わずにはいられない。
この後ジョセフはハンナと出会うのだが、前半はしばらく「いかにも」な展開だけが待っている。ハンナは夫からたびたび暴力を受けており、それを知ったジョセフは次第に心を開いていく。独立系の小作品にありがちな「救いの物語」だと思うだろう。だが「思秋期」はここから本領発揮する。その一つはジョセフの友人の葬式のシーンだ。”葬式”がこの映画でもっとも幸せに満ちあふれたシーンなのだ。悲しみながらも誰もが歌い、踊り、そして笑う。心が傷ついたジョセフも、アザだらけのハンナも本当に幸せそうだ。
だがこの後明かされる真実が息を呑むほど衝撃的だ。この映画が他とは一線を画す最大の理由だろう。抑圧されたハンナの心の闇の深さに驚かされる。それでいて「自分でも同じ事をするだろう」という共感を呼ぶのだから、なおさらだ。それもハンナ役のコールマンの緩急つけた演技のおかげだろう。物静かで信心深い彼女が豹変したとき、それはあまりにリアルで見ている方も苦しくなる。エディ・マーサンが演じた夫の気味悪さは人の嫌悪感を煽り、DVという行動の陰惨さを浮き彫りにする。こんなに恐ろしく痛々しい関係はなかなか描けない。
そう。この映画の登場人物たちは誰も彼もが変なのに、とても自然で観客の共感を呼ぶ。ジョセフが劇中で言う言葉にこういう物がある。「行動を起こすか起こさないかが、自分とハンナ側と世間側の違いだ」と。誰もが程度の大小はあれど、怒りを抱えそれを発散したがっている。ジョセフとハンナはその象徴であり、私たちの代わりに”行動”に移した。それは非常に大きな代償を伴う行動ではあるが、ある意味で救いでもある。だがいつまでも同じでは、結局救われない。自己嫌悪に陥り、また繰り返すだけだ。
究極の事態に直面したとき、彼らがどう動くのかは自分の目で見て欲しい。とても静かでおだやかだが、真の感動を呼び起こしてくれる。人間が持つ様々な感情を、一つの映画にどうやって押し込めたのか。まったく隙のない素晴らしい映画である。
(2012年11月17日鑑賞)
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