テイク・ディス・ワルツ : 映画評論・批評
2012年8月7日更新
2012年8月11日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
二大インディーズ女優が不倫劇を通して探求した移ろいゆく人生の真理
サラ・ポーリーとミシェル・ウィリアムズ。北米インディーズ・シーンで活躍する同世代の実力派女優ふたりのコラボレーションが、監督&主演俳優という形で実現した。「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」に続くポーリーの監督第2作は、人妻の浮気心のざわめきを描く恋愛映画。ふとした瞬間に驚き、喜び、困惑し、高揚する主人公マーゴの多様なリアクションを、ウィリアムズが少女のような初々しさで表現した。ラブ・シーンとは何の関係もない場面であけっ広げな裸体をさらすなど、ポーリー監督への全面的な信頼感がうかがえる。
ウィリアムズの一挙一動に目が釘付けな本作で、最もハッとさせられるのが“虚ろ顔”だ。例えば昼下がりのキッチンで料理中のマーゴが、その場にしゃがみ込んで茫然自失となる冒頭シーン。体の具合が悪いのか、嫌なことでも思い出したのか、観客はもちろん、おそらくマーゴ自身にも理由はわからない。
言わばマーゴは、平凡な日常の中に潜む虚しさの裂け目に落っこちてしまったのだ。ポーリーはヒロインと隣人の青年との不倫劇を通して、人間ならば誰もが思いあたる漠然とした憂鬱や欠落感を掘り下げ、ウィリアムズの魅惑的な“虚ろ顔”を得てその鮮烈なる映像化に成功した。このポーリーの野心的な試みがどれだけ観る者の心に響くかはかなり個人差が生じそうだが、筆者は底知れない人生の真理を目の当たりにした気分だ。ラスト・シーンのウィリアムズの移ろいゆく表情を見てほしい。そこにはほとんど戦慄さえ呼び起こす、陶酔と孤独が揺らめいているのだ!
(高橋諭治)