「突っ込みどころ満載の強引な展開だけど、小泉監督の演出が冴える!」カノジョは嘘を愛しすぎてる 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
突っ込みどころ満載の強引な展開だけど、小泉監督の演出が冴える!
どこかで雰囲気が見覚えのある映像だと思っていたら、監督が小泉徳宏で納得。小泉監督作品で2006年公開の『タイヨウのうた』はとても好きな作品。YUIが“YUI for 雨音薫”として歌った主題歌「Good-bye days」は20万枚を売り上げたことでご存じの方も多いことでしょう。同じ音楽をテーマにした作品として、凄く共通点を感じました。
あとで触れるとおり脚本は、突っ込みどころ満載の強引な展開。それをワンカットごとに丁寧に登場人物の心情を浮き彫りにして、アラをカバーしてしまう小泉監督の演出の巧みさはかなりのものだと思います。きっと皆さんもこの作品を見ていて、わけもなくグッとくる感情がこみ上げてきたことでしょう。その秘密は、逆光を活かした撮影法や凝ったカメラワークなど巧みな撮影テクニックにあると思います。なかでも上手いのは、間の取り方。突然登場人物から、台詞を奪って、無言の間が数秒続くことも。その空けられた時間に、ヒロインはなぜ『嘘を愛しすぎてる』のか、万感の想いが込められていたような気がしました。
もう一つ、本作の主役小笠原秋(通称:AKI)を演じる佐藤健の役作りが素晴らしかったです。本来の明るいキャラを一変させ、商業音楽にどっぷり浸り込んで、利益のタマゴを生み続けるブロイラーとなってしまった天才ミュージッシャンの苦悩する姿を、リアルに表現していたと思います。それがあったからこそ、上野樹里のように天然がかった小枝理子の明朗さが引き立ちました。そしてAKIを追い詰める音楽プロデューサー高樹との対比にも際だったものを感じさせてくれました。音楽に対して自信をなくしていたAKIに比べて、自信満々で聞いてくれてナンボのもんなのだと強気が語る高樹の言い分。AKIの失望ぶりが、高樹の商業市場主義もあながち現実として受けとめなければいけない気になってきます。でも、高樹の仕掛けた口パクバンドに、わかっていて曲を提供しなければいけないAKIの辛さもヒシヒシと伝わってきます。デビュー時代あれほど無性に好きだった音楽だったのに、今では生活の糧としていやいや関わざるをえない存在に。「歌う女は嫌いだ」というAKIの胸中も、そのわけもよく分かりました。
そんな複雑な胸中を佐藤健は見事に言い表してくれていたのです。
この秋から年末に続けて公開されたラブストーリーで本作が一番良かったと思いました。『潔く柔く』では、長澤まさみの単調な演技に幻滅。『陽だまりの彼女』は上野樹里の演技は素晴らしかったけど、ラストの端折り方が酷くて、ガッカリ。『すべては君に逢えたから』は、『ニューイヤーズ・イブ』のパクリで感動半分でした。
物語は、傷心のAKIが川岸でふと心に浮かんだ鼻歌に、たまたまそばを通りかかった小枝青果店の店員で女子高生の理子が一目惚れしてしまうところから始まります。鼻歌に恋するなんて変わっていますね。一方のAKIも、あとから判明するのは理子の声のよさに惚れ込んでいたことが判明。ふたりは出会ったその場で恋に落ち、キスしてしまいます
偶然過ぎる出会いは続きます。
デートを重ねていくうちAKIは、音楽の情熱を取り戻して表情がガラリと変わっていきます。でも理子に本当の自分として付き合ってもらいたかったAKIは、人気バンドプリクラのメンバーという素性を隠して、名前も咄嗟に思いついた「小笠原心也」と名乗って付き合っていました。なぜ自分の代わりのベーシストとしてプリクラに加入した心也の名前をかたったのか、それはあとで見えてくるようになるのですが、何とも意味深な嘘の付き方でしたね。
一方理子も、AKIに内緒でバンド活動をやっていたのです。「歌う女は嫌いだ」というAKIの言葉に、そのことを言いだせずにいました。
理子がバンドの練習をいつもの川岸でやっているところへ、たまたま高樹が通り過ぎます。偶然過ぎるといいたいのは、いつも都合の良すぎるタイミングで高樹が登場することです。そして、理子の歌唱力を耳にしたとき、一発でその才能を直感して、躊躇せず理子にアタックをかけたのでした。理子に「私、失敗しないので!」と口説いたのかどうかは定かではありませんが、あとでそうとは知らないAKIに自慢げに語る「どうしよう俺天才見つけちゃった」という決めゼリフをかます高樹は、充分にドラマの主人公になれそうです(^^ゞ
けれども、タレント管理や情報調査能力の高い高樹の能力を考えれば、もしかしたら理子のこともリサーチしていて、偶然を装ったように声をかけたのかもしれません。
その後理子のデビューに障害になると考えた高樹は、二人のキス写真が写真誌に盗撮さられたと証拠写真を見せつけて、AKIに記事をもみ消すから理子と別れろと強要します。あのシーンだって、実は仕掛けたのは高樹だったかもしれないのです。AKIと理子の行動を人を使ってずっと監視するなんてことも、高樹だったらやりかねないキレ者なんですね。
というわけで、AKIは断腸の思いで、理子のことを諦めて、すべてを捨ててニューヨークに旅立とうとします。それは決して逃げという意味でなく、理子によって再び芽生えた音楽への情熱をたぎらせて、ニューヨークで一からミュージッシャンとして出直す覚悟だったのです。
そんな事情を一切聞かされていない理子は悲しみに暮れます。けれどもデビューコンサートはどんどん迫ってきます。そんな時プリクラのメンバーから、たまたま渡された1枚のCD。それはAKIが渾身の想いでかき上げたものの採用されなかった理子のためのデビュー曲でした。そして、そこにはAKIの正直な気持ちが綴られていたのです。
AKIの曲を理子が歌い上げるシーンは、『タイヨウのうた』のラストシーンに似て、ジーンと心に迫りましたね。
出演者全員が2年前から猛練習して、ライブシーンを吹き替えなしで演奏しているところにもご注目を。本作にかける主演者たちの意気込みが伝わってくることでしょう。
《エンドロールのそのあとに!!!》
映画でエンドロールが流れはじめると、席を立ってしまう方も多いのでは?
しかし、公式ムックでも主演の佐藤健さん、音楽監督を務めた亀田誠治さんのお二人が「エンドロールが終わるまで席は立たないで欲しい」と言っています。美味しいものは一番最後に。是非、絶対に途中で席を立たず、最後の最後まで楽しみきってください。
その最後のシーンではふたりがどうなったのかネタバレされます。そして理子がなぜ嘘をつきまくりのAKIを「正直な人」といい、その嘘を愛しすぎてるのか?AKIの「理子に完敗だ!」と語るラストメッセージを聞けばなるほどと思われることでしょう。
また、エンドロールにも注目。YUIが雨音薫として映画の曲がクレジットされたように、本作も劇中歌は佐藤健でなく、小笠原秋としてクレジットされていました。