「いつしか失われたキングダム」ムーンライズ・キングダム 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
いつしか失われたキングダム
『天才マックスの世界』『ロイヤル・テネンバウムス』など、
ヘンな映画を撮るウェス・アンダーソン監督の最新作。
今回もやっぱりヘンな映画でした(褒めてます)。
漫画かポップアートのように鮮やかな色彩と几帳面な配置。
絵画を切り取るかのようにスルスルカチリと動くカメラ。
やけにシンメトリー(左右対称)を多用する画作りが印象的だ。
そして、奇妙なものの数々。
危険高度のツリーハウス、カヌーの先のアライグマ人形、甲虫のイヤリング、
矢の刺さった犬、きつねやカラスの被り物、謎の赤服おじさん(笑)。
管弦楽の構造を解説する奇妙なBGMや60年代らしいサイケな音楽なども含め、
隅から隅までシュールでキュート。
映像や音楽がヘンなら当然、登場人物たちもヘンです。
浮気相手に靴を投げ付けたり、子どもに失恋を慰められたり、
スカウト隊隊長という“副業”に気合を入れまくっていたり、
なんだか子ども達より子どもじみた大人達(名優達が見事なまでに情けない(笑))。
それに対し、なんだか大人達より大人びた子ども達。
サムとスージーがスカウト隊に囲まれるシーンでは
まるでアクション大作みたいなテンションの子ども達にクスクス。
スージーの前でキャンプの知識を披露したがるサムの姿も可愛らしい(案外頼りがいもある)。
後半、スカウト隊で行った“式”のシーンも、子どもなりにだが真剣そのもの。
そう。くすくす笑いながら観ていたけれど、子どもは子どもなりに、物凄く真剣に生きている。
世界に味方がいないのなら尚更だ。
彼らにとっての“世界”はまだ全長26kmの小島でしかないが、
その小さな世界を、小さな体に持てるだけの精一杯の真剣さで戦っている。
あの保安官達のような、情熱を忘れて日々の生活にくたびれ切った大人だからこそ、
真っ直ぐな情熱で突き進むあの2人に味方したくなったのかも知れない。
あのラストはハッピーエンドと捉えて良いのだろう。けれど僕の場合、
『このひたむきな情熱も、大人になれば失われてしまうのかしら』
と考えた途端、なぜだか少しだけ泣きたくなった。
嵐で失われた王国が、あの2人の記憶に刻まれたのと同じく、
子ども達がいつまでも真っ直ぐな気持ちを持ち続けていられますように。
ふわふわとしていて少しだけノスタルジックな、童話のような映画。
それにしても、あの千里眼の赤服おじさんは結局何者だったんだ(笑)。
<2013/2/8鑑賞>