「ラッセ・ハーストレム監督は、志を忘れたのか?魅力的なキャストにはそそられたけど…」砂漠でサーモン・フィッシング グランマムさんの映画レビュー(感想・評価)
ラッセ・ハーストレム監督は、志を忘れたのか?魅力的なキャストにはそそられたけど…
こんにちは。
グランマムの試写室情報です。
『砂漠でサーモン・フィッシング』
もたもたしているうちに、公開され、もう一週間が経つので、“試写情報”ではなくなってしまいました(^^;)すみません。
エゲレス発60歳の新人作家が書いたベストセラー『イエメンで鮭つりを』の映画化です。
軽やかな脚本に仕上げたのは、オスカー作品賞に輝いた『スラムドッグ$ミリオネア』の脚本家サイモン・ビューフォイ(他に『フル・モンティ』や『127時間』も手掛けた素晴らしい脚本家!)。
監督は、スウェーデン時代の『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』で衝撃を受けたラッセ・ハルストレム。
『ギルバート・グレイプ』『サイダー・ハウスルール』などなどの監督といえば、お分かりでしょう。
主演の男女優も期待出来る顔触れ☆ユアン・マクレガー、エミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマスという、演技実力、容姿、強い内面性から発する魅力を備えたエゲレスが誇る俳優ばかりです!
期待せずにはいられようか?!と、勇んで試写に出掛けました。ところが…。
元々、イエメンの大富豪が、砂漠に川を造って鮭つりをしたい、なんて荒唐無稽なお話だが、“夢を叶える”面では、『スラムドッグ$ミリオネア』に共通する。
これだけのスタッフと、魅力的なキャスティングが揃っているのに、胸に響いて来ないのは何故だろう?
中東情勢との緊張緩和のために、国家プロジェクトにしてしまう政策も、立ち回りの上手い英国らしい←これは説得力がある。
そのプロジェクトを頑として推し進めようとする、冷酷なキャリア官僚を演じるクリスティン・スコット・トーマスは、まさに適役!非の打ち所のない演技だ。
金持ちのワガママだ、とハナから相手にもしない水産学者のユアンも、学問しか興味がなく、着古したジャケット、髪の寝癖も気にしないピュアで頑固なエゲレス人を妙味たっぷりに演じる。
ユアンに話を持ちかける投資コンサルタント役のエミリー・ブラントは、投資家らしく押しの強い性格を、例の眼力演技で、見とれるほどに美しい!
ロンドンの都会生活、ユアンの住む伝統的な住宅、スコットランド高地、湖水のや緑の美しさ、モロッコの雄大な砂漠など、ロケ地はどこも美しく、撮影は魅力的だ。
上手く造られている映画だ。では本作のどこがいけないのか?やはり、景気低迷の日本、生活保護受給者が過去最多を示しているわが国で、大富豪のワガママプロジェクトに、何人の人が共感するだろうか??
富豪の目的が、実は自己の利害ではなかった、と分かったとしてもだ。また、“環境に寄与する”、“夢を叶える”お題目のヒューマンな映画だと認めたとしても…。
素直に良い映画だ、と言えない何か引っかかりの残る作品なのだ。卑近な例だが、イエメンへお嫁に行った友だちがいる。聞くところによると庶民の暮らしぶりは苦しい。文化の違いも大きく、今は夫婦で日本で事業を始めている。
そうした庶民の生活ぶりは、本作では描かれていないない。西欧化を反対する過激派が、ちょこっと 登場するだけだ。
エゲレスでは、環境局や、環境保護団体が鮭の流出に反対する。当然だ。説得力がある。
これら難題に関わる人びとを、もっと丁寧に造形し、奥深く活写していれば、どちらかの派に属する(?)観客にも、説得力を提起出来たのではないだろうか?
つまり表層的なのだ。全てが上滑りしているように見える。
それは、ラッセ・ハルストレムの仕上げのまずさにある。(>_<)どうしちゃったの?!『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』の繊細さ、洗練、純粋さはどこへ行ってしまったの?!
最近作の体たらくはどう?!本作でも安手のドラマのような音楽を使い、洗練の欠片もない。
優秀なスタッフと、魅力的なキャストが揃ったことで、既に満足してしまったのではないだろうか…(*_*;
映画を愛するあまり、辛口になりがちですが、本作は決して悪い映画ではありません。演技やロケ地を楽しむ向きもあるでしょう。
個人的には、主要キャスト3人の魅力が堪能できた(^_-)現在、公開中です。