「単なるラブコメにあらず!その神髄は観てのお楽しみ!」砂漠でサーモン・フィッシング Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
単なるラブコメにあらず!その神髄は観てのお楽しみ!
お正月にはこう言う「のほほん~」としたハートウォーミングな映画がとてもお似合いな気がして、映画館へ行ってこの作品を観てみると、どうして、中々これが非常に壮大で深い示唆と愛の哲学に根ざした映画である事に作品の終盤には気付かされるのだ!
この映画の主人公であるユアン・マクレガー演じる水産学者のアルフレッド・ジョーンズが、「砂漠に鮭を放流して、釣りをするなど、バカなジョークとしか思えない」と言うセリフがあるけれど、そんな馬鹿げた話を本当に映画化する人達もバカな天然キャラかも知れないけれど、そんな映画が出来て、それを観てみようと思いたった自分もかなりの天然入っていると最初は考えたが、しかしこの作品は、あの良作「スラムドック$ミリオネラ」の脚本家の手に因る作品だ。そう考えてみれば、この映画の監督もあの「ギルバートグレイブ」そして「サイダーハウスルール」「ショコラ」を監督していたラッセル・ハルストレムの手に因る作品で有る事を思えば、人間の様々な愛の根源に付いて触れてその世界を描き続けてきた監督だ。
すんなりと、バカ話しに騙されて乗せられて見ようかと考えていた自分がバカだったと思い直した。そしてここには人を愛する事の3つの理想の姿が描かれていたんだ!
1、ジョーンズとハリエットの間に生れた、絆と言う名の愛
初めは、ハリエットはとても紳士的で優しさ溢れる軍人のロバートに久し振りに恋心を募らせ彼との愛にと陶酔するが、これは恋の始まりのお決まりのパターン
しかし、ハリエットとジョーンズ博士との間では困難な新しいプロジェクトを立ち上げて行く過程を共に経て、苦労を共有した事で理解し合い、2人で苦労を乗り越えた事で生れた絆で結ばれた愛だ。しかも、この間に、ハリエットは恋人のロバートの安否確認が出来ないる、そのハリエットの人生で公私共に苦境の間只中の彼女を見守り、力になった彼の誠実な自己犠牲の愛に最後に気が付くハリエット
2、ロバートの無償の愛
ロバートは、初めは、今時恋におくてで純粋無垢なハリエットが女らしくキュートでそんな彼女に惚れて恋に落ちる。此処までは普通の成り行きだ。しかし彼は自分が戦地を彷徨う中で、彼女との愛を信じ、彼女のもとへと生還する事を望みに、一人困難を乗り越え、無事生還を果たす。
しかし、彼女の置かれている状況に変化が生じた事を悟ったロバートは一瞬にしてハリエットを愛する事、その事自体で自分の命が救われ、生きている事の素晴らしさを得た事を悟ると同時に、人を愛する事は、愛する気持ちを持つ事自体で、自分がその事で、生かされ救われる事を知っている彼は、彼女から愛されると言う彼女の愛の代償を求めずに彼女が今本当に幸せになる事を望む。しかし普通は、そんな無償の愛が恋人同士の間に生れるものか?これは少し綺麗事過ぎるか、彼は善人で、お人好し過ぎるだけだと思うだろうが、しかしロバートは、戦地で死線を彷徨った故に得た、命が生かされている事の素晴らしさと、喜びを知っている故に最愛の人の最愛の生きる道を考える事が出来るのだろう。もし自分がハリエットなら、ジョーンズでなく間違いなくロバートを選ぶだろうけれど?それはさて置き次なる愛は?
3、イエメンの大富豪ムハマドの総てを超えた人類愛
映画では、最後鮭を放流する時に彼は、キリスト教徒も、イスラム教徒も、そして無信仰の人々も、総ての人々が手を取り合い、未来の砂漠の緑化の為に協力して欲しいと彼の望みを話す。そして彼は彼のこのプロジェクトを妨害した人々をも許すのだ。彼は妨害者達の気持ちも理解しているからだ。しかし妨害者達は西洋化の流入を善しとしない、ムハマドは異文化交流が自分達のアイデンティティを守り理解を得る事を知っているのだが、誰も今はムハマドの気持ちを理解出来ずにいる。
一般に先進諸国と言う国々で求められている短時間で成果を要求する成果主義と言う近視眼的価値観よりも、例え可能性として不確実でも有るかもしれないが、それでも何よりも時間を費やして信じて待つ事が、時には大切な事かも知れないと言う価値観を教えてくれる。これは中国などの東洋でも共通した価値観の1つだし、国の未来を100年単位で考え、未来のビジョンを描いていくと言う考え方だ。これは言い換えるなら、未だ見る事の無い未来に生れて来る子孫を生かし、信じる事でこれぞ、無償の人類愛だ。普段今の私達が忘れがちな価値観ですよね。
そして、誰にも未来の結果は断言する事など出来ないけれど、その未来に起こる良き結果を信じて、それに向かって努力して行く事こそが神を信じる事で真の意味での宗教と解いているのだ。こう考えると普段見聞きしている中東のイスラム教諸国圏の人々は過激なテロリストばかりがいると伝えるニュースばかりを信じてしまう事がナンセンスな事に気付く。何処の国にも、過激派はいるし、どこの宗教でも原理主義者のような過激な行動に走る人々は存在する。そして何処の国でも、一般庶民は、大方が善人であり、真面目に日々の生活を営み、家族を思いやる優しい人々なのだ。
この大富豪は、決して人間を称える事では無く、神の恩寵を信じて人々が協力して一つの目標を目視し、その目標達成に向けて人々の気持ちが1つなり、そのプロジェクトを完成させる事こそが大切な砂漠で釣りをするプロジェクトの真の目的だと言う。
素晴らしいではないか!未来の良き結果を信じて努力して、人を信じて行動する!
正に、「人事を尽くして天命を待つ」と言う、私達東洋人にはピタリとくる想いである!