「国家プロジェクトが生んだカップルの行く末」砂漠でサーモン・フィッシング マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
国家プロジェクトが生んだカップルの行く末
「砂漠で鮭が釣りたい」という大富豪の一言から始まるあり得ない話も、こうもトントン拍子に面白可笑しく展開すると立派なお伽話になる。
主人公は漁業・農業省に務める水産学者のフレッド(アルフレッド・ジョーンズ博士)。頭の中は海洋生物のことばかりで人付き合いがよくない。とりわけ上司との関係は悪く、唯一の趣味は“釣り”。釣りバカのハマちゃんよろしくデスクの引き出しに釣竿を隠して、自分のオフィスでキャスティングの練習?に励んでいる。これが後に役立つ。
アルコールは週末の夜7時だけという堅物で、物事を科学でしか捉えず、運とか偶然、奇跡というものを信じない。
彼にとってあり得ないものはあり得ず、不可能なものは不可能なのだ。そんな非現実的なことにかまけているヒマはないとばかりに、大富豪の代理人・ハリエットにあり得ないほどの無理難題を押し付ける。このタカをくくったフレッドと、平然と高額の資金をやり繰りするハリエット。二人のやり取りが愉しく、早くもロマンスの前兆を感じさせる。
フレッドにさりげなく“信じる”心を説く富豪のシャイフの存在が、荒唐無稽な話に一本、筋を通す。
この作品を観ていると、そういえば現代人って「やってみなければわからない」「どうなるかやってみよう」っていう冒険心がないよなーって思う。いま、私たちが使っているモノとか知識は、元はといえば失敗が当たり前の世の中で生まれた技術や理論が発展したものばかりだ。現代は初めから完ぺきを求めるあまり、結果的に心のゆとりの無さを生んでしまっているように見える。
ハリエットやシャイフとの出会いが、フレッドに“信じてみる”楽しさを教えてくれる。人を何かに立ち向かわせる原動力は「希望」なのだと改めて思わせる作品だ。
こんないい話を裏で引っ掻き回すのが、自分のキャリア以外頭にない首相広報官のパトリシア・マクスウェル女史。クリスティン・スコット・トーマスが「サラの鍵」とは180度違った演技で、利用できるものはなんでも利用する怪人ぶりを発揮する。首相とのチャットには大笑いだ。
さて国家プロジェクトが生み出したといえるカップルだが、フレッドには妻がいて、ハリエットにも恋人がいる。どちらに転んでもおかしくない展開に、二人が出す結論は観てのお楽しみだ。