劇場公開日 2013年5月25日

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「アイスクリームを選ぶ理由」プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5アイスクリームを選ぶ理由

2013年7月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

「アイスを食べるたびに、俺のことを思い出してくれるだろ?」そう言って、ルークは幼い息子の口元にスプーンを運ぶ。口いっぱいに広がる、とろける甘さ。微笑むルークとロー。長丁場の中で唯一、幸せにあふれた数分間だ。…子どもが生まれるまで私は、子にアイスを食べさせる親の気持ちがよく分からなかった。ベタベタするし、小さい子ども向きの食べ物ではない。けれども、今では何やかやと子どもとアイスを食べている。みるみるうちに溶けて形を失うアイスを、ハラハラしながら忙しくつつき合うひとときは、なぜか楽しく、満たされる。その理由が、この映画のお陰でやっとわかった。
銀行強盗に走ったオートバイ乗り、彼を撃った警察官、その息子たち。三つの物語それぞれが密度が濃く、単体でも十分に魅せる。そんな物語たちが絡み合い、圧倒されるようなうねりが生まれる。中だるみなし、怒涛の141分。「ブルーバレンタイン」はあまりに痛々しくて辛くなる時があったが、今回は皆無。説明をばっさり排した無造作な物語運びが、どこまでも心地良かった。それは、時に支え、時に切り裂く音楽の力と、松林(パインといっても、エゾマツやカラマツ、またはモミの木のようなそびえ立つ針葉樹林。植木や盆栽の松ではない。)をはじめとする、自然の美しさ•力強さゆえかもしれない。
ライアン•ゴズリングの佇まいの素晴らしさは言うまでもなく、「恋と愛の測り方」に続いてエヴァ•メンデスがいい。薄幸であっても早死にするとは限らない。不幸を抱えながらも生きていかねばならない母親を、老けメイクをいとわず演じ抜いていた。
彼らの息子たちは、皮肉な運命をたどる。正義を貫こうとしたはずの警察官の息子はドラ息子に。銀行強盗の息子は所在なく浮遊し、ドラ息子に振り回される。そして、十五年後にやっと活きる修理工の存在。父を闇へ招いたはずの男が、意図せず息子に一瞬の闇と不変の光を示す。不条理だけれど、それも真実と感じた。
私たちは自分の人生を生きていると思っている。けれども実は、否応なしに人生は次の世代に繋がっており、結局は生かされているのだ。何も知らないはずなのにあの店でアイスを食べ、自転車をバイクに乗り換えて駆け抜ける少年の姿に、ささやかな希望を見た。

cma