「生きる希望を捨てるな。」希望の国 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
生きる希望を捨てるな。
今頃になってよく思うのは、
もしあの大震災がこなかったとして、原発もあのまま稼働していたら、
きっと未だに「オール電化♪オール電化♪」というCMが全国に流れ、
すべての家庭がオール電化になる日もそう遠くなかったかもしれない。
電気は安全でクリーンなエネルギーだと誰もが信じていたことだろう。
省エネだecoだと叫んだところで、湯水のように使う人は使うものだ。
私は関東圏に住んでいて、その電力を利用して生活してきたけれど、
ここに送られる電力が福島県からだとは知らなかったほどの愚か者だ。
そして震災後、復興のニュースと共に原発の情報が次々と流され始め、
それが日増しに強くなっていることを知った。最近では私の住む地域も
ホットスポットだと(原発からはかなり離れているが)よくNHKなどで放送
されている。相次ぐ除染作業に市では多額の資金を導入している。
地域住民の、とりわけ子供達の、身の安全が何より大切はごもっともだ。
これからを生きる子供達が見えない汚染物質に汚されることは痛々しい。
でも。じゃあどうすればいい?どこか遠くへ逃げるべきなのか?
遠くってどこだろう?九州か?沖縄か?災害のない場所ってどこなんだ。
そもそも、そんなところが存在するんだろうか。
震災以後、常に危機感を抱える人間の心理を鋭く掬いとった作品だが、
それゆえにブラックで毒に満ちた部分が多く、オーバーアクトではないが
そう見せる表現で、観る者を翻弄していく作品。
確かに震災復興が目覚ましい進展を遂げているのは一部地域だけである。
あの恐怖を忘れてはいけないが、かといって希望を捨てる訳にもいかない。
原発によって住む家を失い二度と帰れない人々の想いは計り知れないが
悔しさをパワーに着々と新転地で生活を再開させた人々のニュースには
大変勇気づけられる。結局なにがあろうと、生きていかなければならない。
人生で、まさかこんなことが!?起きても、だ。
テーマがとにかく一貫してあの調子なので、
観てよかったと思う人もいれば、気持ち悪くて毛嫌いする人も多いと思う。
後味の悪さも秀逸で、あの家族各々の性格を考えれば極端ではないのかも
しれないが、如何せん、どうしてああなるのかという不満も無くなりはしない。
人生がどこかで終わるのなら、せめて愛する者と一緒にいたいのは当然だ。
自分や家族など大切な人々を守るために人間がとる行動は一様ではない。
その人が生きてきた環境や信念に依るところも大きいだろうし、正しいも
間違ってるも、その時がきたらそんなことを考えている余裕すらないだろう。
ただ生きていて欲しいと願う。絶望の中でも、混沌の中でも、貧困の中でも、
命があるなら生き抜いて欲しい。生かされたことには必ず意味があるのだ。
大丈夫。という言葉は常に気休めだ。でも気休めがなければ生きていけない。
安全な国なんてどこにもないし、そもそも地球自体がいま危ないのだから。
震災から一年以上が経ち、記憶が薄れ始めた頃に渡される挑戦的作品。
(どう考えどう行動しどう生きるのかは其々。一歩前へ。一歩ずつ前へ。)