劇場公開日 2012年10月20日

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「ちゃんと面白い」希望の国 mintoさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ちゃんと面白い

2018年9月19日
iPhoneアプリから投稿

ありかなしかで言えば「あり」だと私は思った。しかしながらテーマもテーマなので観る人のバックボーンや政治観によって当然評価は別れるだろう。誰がみても面白い大衆娯楽というよりはひとつの備忘録にも思える。
3.11のあの日から日本は大きく変わった。怖かったし、悲しかったが東京育ちの私はどこか他人事のようにも思えた。
園監督はどうだったんだろうか?ヒミズにも無理やり差し込んできたことからも相当な関心があるのだと感じる。彼は映画監督としてこの出来事を扱うことに必然性を感じたとのだろうと思う。
この映画のすごいところは2012年に公開しているところだ。ヒミズもそうだが線量のまだ高かったであろう福島で撮影をしていたと思うと園子温を含めた製作チームの作品に対する真摯さには頭が下がる。
園監督の作家性やテーマに目を奪われがちだが、この作品は映画として面白く作れていると思う。夏八木勲はあそこまで慕われるに説得力のある素晴らしい演技だった。人間性が滲み出ていて彼以外には考えられない程だった。
地震が起きる前、つつましくも幸せな日常、あの短い間でキャラを描き、世界観を描き、しかも面白い。後半は間延びした印象もあったが、震災以前の脚本は感嘆するほど素晴らしいと思った。
問題の「おこがましい」発言。この作品においてスピリチュアルなシーンはあそこだけで、やや浮いているようにも思えるが、強い主張性をもっているようにも感じる。
あの発言からのラストなのでやはり意図的に相当考えられたテーマを代表するセリフだったのだろう。「一歩二歩三歩なんて今の日本人にはおこがましいですよ、これからは一歩一歩一歩一歩一歩ですよ。」
この感覚は私は分かる気がする。被災した人が聞いたらブチギレておかしくないと思うがこのセリフは反面教師的なセリフだと思った。
震災のことや、原発、政治など、僕らが語るにはおこがましいという感覚は少なくとも若者にはある気がする。しかし監督は、そこを作品にした。おこがましいとされるものをテーマにして一生残るものとした。それは自分への戒めのようにも、無関心な僕らへの警告のようとも捕らえられた。いっぽ、いっぽ、というのは、先を見据えて大切なものを見失いがちな我々に必要なものなのかもしれない。

minto