「ノワールかと思ったらスパイアクションの変種だった」L.A. ギャング ストーリー メンチ勝之進さんの映画レビュー(感想・評価)
ノワールかと思ったらスパイアクションの変種だった
あの時代のロスを舞台にしたギャングと警察の抗争物、ということで、チャンドラー的というか、『チャイナタウン』や『L.A.コンフィデンシャル』みたいな作品を期待して行ったのですが、実際には『スパイ大作戦』や『ハングマン』みたいな秘密チーム物だった、という印象です。
まあ、チーム物と割り切ればそこそこ悪くないんですけどね。キャラはそれなりに立っていて、頑固なアイリッシュ警官のジョシュ・ブローリンがアカレンジャーだとすれば、ライアン・ゴズリングは斜に構えたアオレンジャーという、リーダー&サブリーダーの黄金パターンですし、他のメンバーも短いながらそれぞれに見せ場があってキャラの描き分けはできていました。
さらにチーム物として見たいシーン、
・メンバーのスカウトシーン
・男たちが横並びで歩くスローモーション(背景で爆発)
というようなお約束も一応やってくれます(クライマックスの前に武装シーンがあればなお良かった)。
キャラクターという面では、ミッキー・コーエンを演じたショーン・ペンは本職以上に本職ぽかったといえますし。
ただ。
あの時代のロスを舞台にするということは、文明の爛熟と退廃とでも言うような何かを描かないことには意味がないと思うんですが、そういう何かがこの作品にはありませんでした。
チーム物としてはそこそこ面白かったですけど、ノワールとしてはお約束が並べられているだけで、陰翳と深みが足りず、もっと後味が悪いのを観たかったですわ。脚本の問題(?)だと思うんですけど。
まずエンディングがハッピーすぎます。
メンバーで二人死人が出ていますが、そのほかにジョシュ・ブローリンの奥さんと、それからライアン・ゴズリングが死ぬべきキャラクター配置じゃないかな。
エマ・ストーンを匿ってサリバン・ステイプルトン演ずるジャックが殺されますが、キャラクターを整理して、ライアン・ゴズリングが殺されるようにしたほうがもっと盛り上がったはずです。エマ・ストーンの喪服姿も見られるし。
いちおう史実にインスパイアされた物語だそうですが、そのくらいの脚色は許されると思います。
それから、警察の腐敗と身内の裏切りという要素が足りないです。いちおう郡保安官が腐敗している設定ですが、ロス市警と組織が別なので身内に裏切られたというショックは特にないですし。
なによりボスがニック・ノルティで、悪徳腐敗警官を演じさせたら世界一のオーソリティというべき役者なのに(猫なで声で気持ち悪いし)、そのボスがとうとう正義の味方で終わるというのは納得いきません。いつ裏切るかと思って期待していたのに最後まで不発でした。
せめて「手柄を独り占めにしやがって」くらいの感じがあればまだ良かったのに、キャスティングを活かしきれず残念です。
それとヒロインのエマ・ストーンもファム・ファタールには物足りないです。まだ『ゾンビランド』で演じたようなラブコメ的小悪魔のレベルにとどまっていて、大人の女を演ずるには十年早かったという印象です。
以上、もろもろ物足りない面がありまして、悪くない面もそれなりにあっただけにもう一癖二癖欲しかったなあ、というところでした。